13: ◆ao.kz0hS/Q[saga]
2017/02/25(土) 22:02:28.48 ID:CYpm3u/s0
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ぎぃぃぃ
ウチの事務所のドアはボロいから開けると絶対に音がする。
「えっ…だ、誰……っ?」
奥からの怯えるような声は予想通りだったが、それに応えることはしないまま、まっすぐと声のした方へ向かう。
パーティションを越えると、自分のデスクから立ち上がりこちらを注視しているアイツの姿が目に入った。
「あ、あれ…? 夏樹…ちゃん…?」
緊張していたPの表情が一気に柔らかい…いつもの笑顔に変わる。
「こんな時間にどうしたの? 忘れ物?」
子犬みたいにPが駆け寄ってくるのを見て、アタシの足はピタリと止まってしまった。
実のところ…アタシは何のためにここに来たのか、そしてこれから何を言おうとしているのか、自分でも分かっていなかった。いや、決められていなかったという方が近いか…。
アタシのハートはあっちやこっちへでたらめに動いて、気持ちの整理なんて全くできていない。
いつもの調子で近づいてくるPを戦々恐々とただ凝視する。
「え…夏樹ちゃん、目腫れてない…? それに唇も紫っぽい…?」
「………っ」
Pが目を細めてアタシの唇を覗き込むように見たそのとき、揺れたPの頭髪から匂ってくるものがあった。
20台の男にしては甘さのある爽やかな匂いと…油っぽさのあるツンとした汗臭さ…。
これまでもどっちの匂いもPから感じたことはあった。
ツンとした汗臭さを感じるのは決まって今みたいな夜で…そのときにはいくらPが女っぽくても一日働けば男臭くなったりもするんだなって思ってた…。
でも…今考えるとPを臭く感じたのは決まって、Pとアタシたちが分かれて仕事をした後に落ち合った場合だったような…。
いや、今ははっきりと分かる…。
Pから感じたことのある男臭さは…あの豚男のものだったんだ…。
Pはずっと今日みたいなことを続けていたんだ……。
「わっ…ほっぺた冷たい! 夏樹ちゃんもしかしてずっと外にいたのっ? あぁもう、こんなに冷やして…」
「ぁ………」
頬に何か温かいものを感じて意識を目の前に戻すと、Pがいつもの気安さでアタシの顔に手を差し伸べていた。
温かい、Pの、手…。
そのPの手はさっきまで…!
「……るな……」
「え…? 夏樹ちゃん?」
凍えた頬を溶かすようなPの手の温かさに言いようのないヌメリを感じてしまう…。
触れられている部分からドロドロの何かおぞましいモノが皮膚に滲み込んでいく気がして、全身が総毛立つ。
その粘つきに絡めとられ、アタシの胸の中で揺れ続けていたメトロノームがついに止まった。
「さわるな゛……っ」
「夏樹ちゃん…声が…」
瞬間、また胃が蠢き出す予感があって、それだけはもう御免だと無理矢理抑え込むように腹に力を入れて、拒絶を繰り返す。
「アタ゛シにさ゛る゛な゛っ!!」
「ぁ…っ!?」
ダミ声の叫びと一緒にPの手を力いっぱい払いのけると胃の動きは止められた。
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