35: ◆ao.kz0hS/Q[saga]
2017/02/25(土) 22:34:56.69 ID:CYpm3u/s0
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その日が来たのはだりーに相談を持ち掛けられた五日後だった。
ちょうど前日にモノが手元に届いて、Pだけが夜の事務所に残っている、丁度いいタイミング。
と言っても、アタシが事務所に居残ってPが外回りから帰って来るのを待ち伏せしていたんだが。
昨日は空振り、今日でビンゴ。
「ただいま帰りました〜〜って、誰も居な……な、夏樹ちゃん…」
事務所のドアを開いてアタシの姿を認めたPは一瞬だけ硬直した後、平静を装って自分のデスクに着いた。
そして鞄の中から書類を整理しながらどうでもいい世間話を振ってくる。
いつの間にか、手には白い手袋をはめていた。
「夏樹ちゃん……き、昨日渡してくれた新曲のメロディー、すっごく良かったよ…。初めのころとは…雰囲気変わってきてるけど……
な、なんていうのかなぁ…ロックっていうのかなぁ…とにかくカッコよくて…」
どいうつもりかは分からないが、アタシがPに対してソウイウコトをするようになってからもPは普段は以前と変わらないようなコミュニケーションを取ろうとしてきた。
当然、ぎこちなさがあるからかえって痛々しく感じるんだが。
そのくせ、なぜこんな時間まで事務所に残っているのかについては絶対聞いてきたりしない。聞く必要がないからだ。
アタシがこんな時間に事務所にいる理由なんて一つしかなくて、Pもそれを分かっているんだ。
「で、でも、歌詞はね…ちょっと表現を変えた方が良いかなって思うところもあって…」
「………あ、やっぱり?」
アタシはPのデスクに近づき、着席したままのPを見下す。
「ぁ……」
こくりとPが生唾を飲み込んだのが喉の動きで分かった。
Pに近づくとフローラルな香りが鼻をくすぐった。ついさっきシャワー浴びてきましたっていうような瑞々しいシャンプーの香り…。
「そ、それでね…直した方が良いかなって、ふ、フレーズに…」
「なあ、今日はどんなことされたんだ?」
「っ……!?」
あの日以来、Pから豚の匂いがすることはなくなったが、代わりに豚と会った後にはきっちりシャワーを浴びるようになったらしく、まぁどっちにしろ会ったことは匂いでバレバレなわけだ。
「ぁ…ぅ……」
「ん? ほら、教えてよ?」
「今日は…その…く、クチで……」
「あ、そうなのか?」
「……時間があまりなかったみたいで…ね」
「ふーん…そうか…それは…良かったな」
「う、うん、そうだね…すぐに終わって助かったよ…」
いや、良かったっていうのはオマエのことじゃなくて、アタシにとってなんだが。
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