勇者「幼馴染がすごくウザい件」
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29: ◆y7//w4A.QY[sage]
2017/03/16(木) 10:42:14.95 ID:KWdk4OjR0
揺れる蝋燭の火炎がナニカの形を淵作る異形に、魔王は目を細める。徐々に収束し、大きな塊を作ってゆく。

「魔王様、お目覚めでございますか」

炎の塊が喋った。その声は低く、しかし艶を持って禍々しい。異形のモノがヒトの形を作り終えると紫の髪を振り乱し、豊満な胸を両手で持ち上げ、口角をつりあげた女性が立っていた。
魔王直属である四天王の1人、淫魔の王、サキュバスである。

アリス「トモエか。なんの用であるか」
トモエ「ゴブリンからの連絡が途絶えました。勇者の発現は阻止できなかったようです」
アリス「勇者がやったのか?」
トモエ「ゴブリンを退けたのは勇者ではなく、取り巻きです。姿は確認いたしました。まだ赤子のような存在ですが、潜在能力は……」
アリス「どうした、続けよ」
トモエ「……失礼ながら、魔王様と比肩するやもしれません。私も、水晶で勇者の精霊を見た時に震えてしまいましたわ」
アリス「それほどか」
トモエ「はい。おそらくは奴こそが、精霊神のジョーカーかと。私が知りうる中で、歴代最強と言っても差し支えありません」
アリス「古参のお前がそこまで言うか。面白い、これまで私に立ち向かう勇者どもは見かけ倒しばかりであった」
トモエ「必ずや魔王様のご期待に添えることができるでしょう」

――ああ。ようやく、ようやくだ。
魔王は、喜びに打ち震えていた。もちろん、自分の目で見るまでは全てを信じるわけではないが、なぜか、確信にも似た予感を感じている。
今代の勇者ならば、私に生きる意味を説いてくれるのではないか、と。

力をふるい、暇つぶしに壊し、人の大切な物を破壊することに快楽を感じ、自分の存在が上であると確信するために泣き叫んで命乞いをしているのを見て悦に浸る。

そのようなつまらぬ遊びに魔王は飽き飽きしていた。欲しいのは、自身と肩を並べる存在。対等にぶつかり合い、生きていると実感させてくれる者を心の底から欲していた。

アリス「く、くっくっくっ、あっはっはっはっ!」

魔王の笑い声が響いた。
頭の中へと直接響くような底冷えのする声にトモエもまた、狂気と恐怖を感じて震える。

トモエ「(威圧感があり、威厳もある。しかし、なぜ魔王様はこんなにも、死にたがっているように見えるの……)」

それぞれの想いを胸に秘め、ボタンのかけ違いは交差する。それが望む望まないに限らず、ひとつの終わりは誰しもにやってくるのだから。


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