1: ◆yufVJNsZ3s
2018/10/19(金) 01:11:54.97 ID:0J++fsfw0
何事にも得手不得手というものは存在する。
運動が得意な人間がいる一方で、勉強が得意な人間がいるように、個々のちからは千差万別。そしてそれは、決して単純に数値で測れる要素にのみ顕現するわけではない。
たとえば私は感情を表情に出すことが不得意だ。そうである、らしい。そんな意識はなかったのだけれど、先日あの男に――訂正。「提督」に――言われて、私は一旦自らの歩みを止めた。
秘書艦の仕事に愛嬌は不要だ。そして、これまで提督や他の艦娘たちとの間で、コミュニケーションに困ったことはない。姉妹仲よく滅多に喧嘩せず、海軍学校での後輩関係にある鹿島や香取は慕ってくれているし、至って順風満帆である。
提督だって別段苦言を呈したわけではないのだ。あくまで雑談。日常のちょっとした一コマ。あんまり笑わないよな、とか、その程度のもの。
悩む必要なんてない、はずだった。
2: ◆yufVJNsZ3s
2018/10/19(金) 01:13:56.25 ID:0J++fsfw0
はてと考え、なるほどあるいはと熟慮の末に、そういう可能性もあるかもしれないと至る。もし「それ」が「そう」なのだとしたら、私の背負う罪業はあまりにも大きいのではないか。
別段善良な人間を気取るつもりはない。とはいえ偽悪的なふるまいとも縁遠い。
ただ、私は私に背いたことはないという自負があった。そのように生きてきたし、これからもそうして生きていく。
3: ◆yufVJNsZ3s
2018/10/19(金) 01:14:32.44 ID:0J++fsfw0
全てが完璧だと思えるほど自惚れてはいない。けれど、今の自分の不足や欠点と真正面から向き合うのは、それもまた非常に勇気のいること。
それでも。あぁ、それでも、勇気の向こうにしか、一歩踏み出した果てにしか、私の望む未来が待っていないというのだとすれば。
そうすべき責任が私の背後にあるのだとすれば。
4: ◆yufVJNsZ3s
2018/10/19(金) 01:15:01.35 ID:0J++fsfw0
「大井っちは確かに顔に出ないタイプだと思うよ。でも、意志の疎通が難しいって感じでもない」
それは姉妹艦の欲目なのでは? 言った私に、北上さんは手をひらひらと振って否定した。
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