佐久間まゆイチブンノイチ人形
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14:名無しNIPPER[saga]
2018/12/01(土) 14:32:48.97 ID:3QcdtyFE0

 よし、と口に出してみる。

 何度目かわからない空元気だったが、今回はたまたまいい助走になったようだった。俺は思い切ってドアの鍵を開け、そのまま一目散に家の電気を点けた。台所、バスルーム、そして部屋とお構いなしにスイッチを入れたから、たちまち部屋が光でいっぱいになる。


「よかった〜」



 部屋の様子を見た俺の第一声がこれだ。目に見える範囲でだが、特に何かが変わっている形跡もない。朝見たときのまゆ人形は部屋の隅、ベッドの反対側に突っ立ったままでいる。安心からか力が抜けて、思わずへたり込んでしまった。

 そこからは、あらかじめ決めていた行動をテキパキとこなすことができた。人形を放置したまま飯を食うのもシャワーをあびるのもまっぴらごめんというものだ。壊すのは流石にはばかられたため、触りたくもない重たい人形をゆっくり、ゆっくりと再び箱の中に戻していく。元々入っていた白い梱包材を、出来るだけ記憶のままに同じように配置してふたを閉めてから、家にあったガムテープを段ボールにグルグルに巻き付けていく。ほぼ新品だったガムテープがなくなるまで巻き付けるのはいかにも臆病な俺らしかった。

 一連の作業が終わった後、俺は恐る恐る段ボール箱をこんこんとノックしてみた。もちろん――というのは俺の希望が多分に含まれているが、中から返事が返ってくることはない。元々、数十キロある人形が入っていた強固な段ボールに、さらにこれでもかとガムテープを追加してやったのだ。たとえ俺が段ボールの中に入れられたとしても出ることができるのかどうか。ここにきて、やっと心が落ち着いた気がして、俺は一つ大きな息をついた。

 そこからはいつも通りの時間を過ごした。まずはシャワーをあびて、帰宅する途中で買ったコンビニの弁当をかっ込み、そして仕事を少しだけ進める。そうしている間にも部屋の隅に置いた段ボール箱をちらちらと確認するが、特に何かが起きることもない。

 12時を回る前には眠気が襲ってきて、俺は人形なんかなかったみたいにストンと眠りに落ちた。きっと、精神的に相当疲れていたのが原因だと思う。

 




 そうして、彼女の時間が来た。







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