53:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:24:22.55 ID:3bKI/3gF0
おはよう
54:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:25:06.72 ID:3bKI/3gF0
「……下手くそだね、私」
眼前の一花が気まずそうに笑い、俺からちょっとだけ離れる。彼女の右手は口許を覆っていて、今の一瞬に何が起きたかを薄ぼんやりと把握した。
「…………醒めたか?」
55:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:25:40.22 ID:3bKI/3gF0
「なんか、ごめん……」
「いや、謝られても……」
なんだか超絶気まずい空気が流れている。情動を支えるには最低限のテクニックが要るんだなあとどうでもいい発見を得て、肌面積が大きすぎる一花から目を離した。長時間眺めているのは体に毒だ。
俺の反応を見て、一花は腕で自分の上半身を掻き抱いて、ちょっと恥じらってみせた。女性とは恥じらいの生き物だったなあと肝心なことを思い出す。どうにも俺の周りの女子はスタンダードではないらしいので、徐々に俺の感性がメインストリームから逸れていっている気がしないでもなかった。
56:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:26:26.84 ID:3bKI/3gF0
「…………これで十分だろ、共有する秘密。キス下手くそって。黙っておくから、そっちも頼む」
「うん……」
重っ苦しい空気感から脱しようと努めて、手持無沙汰な右手で未だくすぐったさが抜けない耳を掻く。次いで立ち上がってかけっぱなしになっている一花の上着を取り、乱雑な手つきで彼女に羽織らせた。
57:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:26:57.15 ID:3bKI/3gF0
しかし一花は三角座りのままどんどん小さくなっていくばかりで、一向に行動に移らなかった。なんというかもう、見ていて痛々しいばかり。
俺の感性ではよく分からないが、世間一般的にキスの技能は必須だったりするのだろうか。ここまで凹むってことは、実際そうでもないと説明がつかないし。二乃も三玖も、まあ取り立てて下手だったわけでもないし。
でも……なあ?
「そんなに落ち込むことか?」
58:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:27:33.31 ID:3bKI/3gF0
そう言われようにも、歯が当たってしまった事実は消えてくれないし、ここはどうにか切り替えてやっていくしか選択肢がないと思うのだが、気持ち的にそう簡単には割り切れなかったりするのだろうか。理想と現実との乖離が思った以上に大きくて、そのギャップに打ちひしがれているとか。
でも、それは彼女個人の問題だから、外野の俺がどうこうしてやれることじゃないし……。そもそもまた女の子から強襲されて、いよいよ誰を信じればいいんだよ状態に陥ってるし……。
「ねえ、フータロー君」
「なんだ」
59:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:28:02.00 ID:3bKI/3gF0
あいつはもう、キスがどうとかいったレベルではなかった。異常な暴走っぷりだったし。……かなり気持ちよかったのは認めるけど。
だからといって、それを馬鹿正直に教えて誰が得をするのか。俺は言い損だし、一花は傷心が加速するだけでは……?
なら、ここは優しい嘘で誤魔化すのが一番正しい選択なのではないかとさえ思う。拗らせるのは勘弁願いたい。
「似たようなもんだったよ」
60:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:31:29.08 ID:3bKI/3gF0
更に一花が小さくなった。自信とか尊厳とか、人が生き抜いていくうえで大切なものが根こそぎ破綻していっている感じだ。さっきまでとは別の意味で見ていられない。
「恥ずかし……」
「キスの巧拙とか人生においてそこまで重要じゃないだろ」
「でも、今後フータロー君はさ、私がみんなに対してお姉さんっぽい言動をするたび、『でもこいつはキス下手なんだな』って思うじゃない」
61:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:32:02.54 ID:3bKI/3gF0
俺の評価なんかで何が変わるとも思えないが、一花的に俺に舐められっぱなしなのは癇に障るらしい。まったくもって謎な価値観だが、この落ち込みようを見ると、彼女にとってはものすごく大事なことなのだろう。
「三玖と私が話してるところを見たフータロー君は、これから絶対考えるようになるんだよ?『あ、上手い奴と下手な奴だ』って」
「お前の中で俺がどんな認識を受けてるのか分からなくなってきた」
62:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:32:30.74 ID:3bKI/3gF0
「……フータロー君はさ、きっと上手なんだよね」
「え、そこに飛び火すんの?」
「三玖と上手なキスしたんでしょ? なら、私よりは絶対に上じゃない」
「……確かに歯は当たらないかもしれんが」
「ほら、そうやっていじめる。キスマウント取ってくる」
63:名無しNIPPER[ saga]
2019/01/09(水) 21:33:43.75 ID:3bKI/3gF0
「……ねえ、フータロー君」
「なんだよ」
「一つお願い聞いて」
「それで解決するならこの際聞いてやるよ……」
「…………やり直し」
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