中野五月「あいまいでぃすたんす」
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1:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:26:40.01 ID:3G9LR2BY0
五等分の花嫁のss。 たぶんR18。 

続編なので前のから読んでね。


2:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:27:56.06 ID:3G9LR2BY0
何度試そうにもこれ以上カレンダーを捲ることが出来なくなって、そこでようやく今が何月かを理解した。玄関から一歩外に出ればそこにはもう冬が広がっており、間もなく今年が終わってしまうという事実をぼんやりと悟る。
 すっかり歩きなれてしまった通学路に、ずいぶんとくたびれた制服。そういったものともあと数か月でお別れだ。小学生の時も中学生の時も似たタイミングはあったはずで、しかし当時は何を思うでもなかった。だが、今回限りは少し特別。
 嫌でも思い入れなきゃならない出来事と交錯し続けた高校生活。特に二年後半からの攻勢は凄まじく、忘れようにも忘れられない記憶がちらほら。その中には可能なら忘れ去ってしまいたいことも含まれているのだが、この際それは考えないことにしておく。
 過去を振り返るたびに胸中にじんわり広がるこの感傷が、世に言う名残惜しさってやつなのだろうか。結局のところは自問自答でこの問いに答えてくれる相手はおらず、だから永遠と自分の内側で反響するだけになってしまうのがうざったいけれど。



3:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:28:22.72 ID:3G9LR2BY0
 暖房の良く効いた職員室と比べて、廊下はお世辞にも快適とは言い難かった。スラックスの裾から入り込む冷気に脚が震えて、連動するかのように歯の根がカチカチと鳴る。白む吐息を見れば分かる通りに、節電はばっちり行われているようだ。環境保護に意欲的な施設のようで大いに結構。
 それにしても、この時期の学校から漂う焦燥感はどうにも好きになれそうにない。受験間近の三年生とそれを受け持つ教師たちは絶えず余裕のない顔をしているし、下級生もその勢いに飲み込まれているせいで非常に窮屈だ。マンツーマンの面談やら面接練習やらがそこかしこで実施されていて、とにかく校内全体が息苦しさに満ち満ちている。
 それらを受けて、嫌だなあと大きくため息をついた。こちらの事情を一切顧みることなく変遷していく周辺世界に関してもそうだし、今までとは打って変わってその環境から影響を被ってしまいそうになっている俺に対してもそうなのだが、とにかくもう少しでもいいから穏便に回ってくれやしないものだろうか。



4:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:28:55.10 ID:3G9LR2BY0
「上杉君」
「……ん」

 教室への帰りしなに声をかけられる。誰かと思って顔を見れば、今日も今日とて頭部に星型のアクセサリーをくっつけた末っ子さんがそこには一人。彼女も寒さには強くないようで、冷気にあてられた頬はほんのりと紅潮していた。
 
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:29:24.01 ID:3G9LR2BY0
 会う場所が会う場所で、歩く方向が歩く方向だったため、繕いようがなかった。今の俺は誰から見ても、職員室から出てきた生徒だ。

「ちょっと担任から呼び出されて」
「……悪事を働いたりは」
「してねえよ」
以下略 AAS



6:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:29:52.52 ID:3G9LR2BY0
「ではどんな理由でしょう?」
「追い追い話すから待ってろ。ってかお前、人のこと心配してる余裕あるのか?」
「……うっ」

 露骨に目を逸らされる。誤魔化そうにも俺は彼女のテスト結果を網羅しているので、口先で何を言おうと無駄だった。直近の模試では、なかなか苦しいアルファベットが成績欄に印字されていた記憶がある。
以下略 AAS



7:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:30:34.18 ID:3G9LR2BY0
「俺はいいから、今は自分のことだけに集中しとけよ」
「そうは言っても……」
「ここに来てるってことはお前も職員室目当てなんだろ? ならさっさと行ってやれ。後がつかえる」

 五月は妙に食い下がる気配を見せたが、意図してそれに取り合わず、そそくさとその場を脱する。積極的に話したいことではなかったし、話すにしても場所を選ぶ必要があると思った。少なくとも誰が盗み聞きしているかも分からない廊下で持ち出すような話題ではない。
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:31:03.00 ID:3G9LR2BY0
 時期が時期だから、もう通常授業という名目で時間割が運営されていない。何もかもが受験対策に染まっていて、ここが高校なのか予備校なのかの判定が自分の中で曖昧になってきているのが分かる。
 午後イチのコマは発展演習ということで、有名大の過去問を解かされた。幸か不幸か以前に手をつけた問題だったので制限時間の三分の一程度で解答欄を埋め終えて、残り時間を思考に費すことにする。
 思い返すのは、先ほど職員室で問われた話題。自分の中で未だに結論が出ていない、一つの大きな悩みについて。この数か月で何度も考えさせられて、されどまるで答えがまとまってくれなかったこと。

「…………」
以下略 AAS



9:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:31:30.56 ID:3G9LR2BY0
 次に、何も書けなかった。俺の思考力は現在を描くのに精いっぱいで、その先の未来を書き記してくれない。数か月後の身分さえ、確定させることが叶わない。
 どう想像しようにも上手く行ってはくれなかった。先へ先へと進んでいくと必ず思考が断絶するポイントがあって、何度試してみてもその関を越えられないのだ。そしてそれは、決まって進学や就職といった場所で発生する。
 要するに、お先が真っ暗だった。その場所に至る能力の持ち合わせはあるのに、それを活用している自分の姿が思い描けない。目的なく手段を鍛え上げたツケをこんな時になって払わせられることに歯噛みし、今しがた書いたばかりの階段をHBの鉛筆で塗りつぶす。その像はまるで今の自分の脳内を図解したかのようで、直視するのが躊躇われた。


10:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:32:02.11 ID:3G9LR2BY0
 教室に響くのはペンが文字を記す音と、クラスメイトの呼吸音。それから、時計が秒針を刻む音。
 そのどれもが優柔不断な俺を急かしているように思えて、逃げるように目を閉じた。
 そんなことをしたって、白紙の進路調査票は埋まってくれやしないのに。




11:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:32:41.56 ID:3G9LR2BY0
 どんな問題も、永遠に保留しておけるならそれより楽なことはないのになと思う。期限をどこまでも先延ばして、追及をのらりくらりとかわして、そうやっていつまでも面倒なことを考えずにいるのが許されるなら、俺もそっち側に流れるかもしれない。
 けれど、現実としてそんなことを許容してくれるほど世界は甘く作られてはいなくて。だから遅かれ早かれ、満足の行く行かないにかかわらず、答えを迫られるときは必ずやって来る。

「へんなかお」
「そう思うなら見なきゃいいだろ」
以下略 AAS



12:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:33:18.55 ID:3G9LR2BY0
「眉間にしわが寄ってる」
「目が疲れてんだよ」
「ほんとに?」
「ほんとに。ついでに言えば脳とか体とか、他にも色々疲れはたまってる」

以下略 AAS



13:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:34:14.29 ID:3G9LR2BY0
「えい」
「えい、じゃねえよ」
「ほぐせば少しは良くなるかなって」

 大きく身を乗り出した三玖が、指先で俺の眉間をつまんでくる。それに飽き足らず前後左右にぐりぐりと動かしてくるので、前を見るのもままならない。
以下略 AAS



14:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:34:47.14 ID:3G9LR2BY0
 原因は明らかに睡眠不足なので、保健室のベッドにでも潜り込むのが一番だ。ただ、最近は寝つきも良好とはいえないからなんとも。
 それ以前に解決すべきことが山積しているとの見方もあるが、俺の能力で片付けるのが不可能だからここまでだらだらと間延びしてしまったわけで。
 眉間から下降して頬っぺたをつつき始めた三玖の手を退けて、目をノートに落とす。正直これ以上手を尽くしたところで意味があるかは微妙なのだが、気分的に妥協はしたくなかった。

「無理はほどほどにね」
以下略 AAS



15:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:35:14.65 ID:3G9LR2BY0
 俺が現在扱っているのがセンター対策系の問題集だったのを見て、三玖は色々と察したようだ。

「どうせなら皿まで食ってやろうと思ってな」
「…………?」
「こっちの話」
以下略 AAS



16:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:35:42.07 ID:3G9LR2BY0
「ここまでやってきたんだ。どうせなら成功してもらった方が得だろ」
「損得で考えるのがフータローらしいっていうか」
「俺の一年の価値が問われてるからな」
「そんなの、気にしなくてもいいのに」

以下略 AAS



17:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:36:34.31 ID:3G9LR2BY0
 これから受験に臨む誰かさんのために躍起になって要点整理ノートなんて作っているのだから、そう言われても仕方ない。ここまでくると介護に近い趣さえ感じる。
 昼間はあんなことを言ったけれど、あいつの努力に関しては疑っていない。要領が絶妙に悪いせいでこれまでは結実しなかったが、人生の大一番でくらい成功体験を味わってもらっても罰は当たらないだろう。
 
「サポート頼むぞ」
「うん、分かってる」
以下略 AAS



18:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:37:04.07 ID:3G9LR2BY0
 精神面のケアは俺の領分じゃない。それはこれまでで嫌と言うほど理解させられているので、大人しく姉妹に丸投げしておく。同じ家で過ごす家族である以上、俺なんかよりもよほど上手く立ち回ってくれるに違いないから。
 得手不得手はどうしてもあって、そしてそれは彼女たちに限った話ではない。克服しようと努めるのも大切だけれど、効率の方を優先させた方が丸く収まる場合だってある。おそらく、今は後者だ。
 一年前よりは彼女たちのことを深く知って、一年前よりはその心の内を推し量ることに大きなウェイトを割くようにもなった。けれどそこにはどうしても俺の性向上の限度が存在するので、踏み込み過ぎるのも考え物だ。
 
「……で、お前はどんな用向きでここに来たんだ?」
以下略 AAS



19:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:37:31.31 ID:3G9LR2BY0
 一切の予備動作なく投下されたバンカーバスターの余波がどこまで広がっているか確認するために周囲を一通り見回すが、幸運にも聞き咎めた者はいないようだった。聞いていないフリをしているのかもしれないが、別にそれでも構わない。今この場において重要なのは、いかになんてことない感じで受け流せるかどうかだから。

「……反応してもらえないと恥ずかしいんだけど」
「悪いが今ちょうど切らしてる」
「スーパーじゃあるまいし」
以下略 AAS



20:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:38:04.85 ID:3G9LR2BY0
「入荷予定はあるの?」
「……数か月後じゃねえかな」
「そっか。なら、気長に待つ」
「わ――」

以下略 AAS



21:名無しNIPPER[saga]
2019/02/21(木) 20:38:37.19 ID:3G9LR2BY0
「わ?」
「……忘れてたら言ってくれ」
「じゃあ、今日から毎日催促を」
「やっぱやめてくれ」

以下略 AAS



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