2:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/03(水) 19:54:56.47 ID:DvK9a+dU0
<第1話 花火>
転校は初めてじゃない。
ただ、これが最後になるかもしれなかった。
高校三年生の夏。
進路を決めるのに、腰を据えて考えられたほうがいいだろう、と誘われて、俺は父さんの地元で一緒に住むことになった。
そうと決まれば、それまで住んでいたところを離れ、学校も変える。
いつもしてきたことだ。
『新しい場所でうまくやっていけるだろうか?』
『やっていけるとも。これまでそうしてきたようにな』
車窓に映る《俺》たちが、他人事のように軽い調子で言う。
『それにしても、やけに人が多くないか?』
『祭りでもしているんだろう。花火の音が聞こえるし、華やかな装いの人も多い』
『このあたりでは有名な祭りなのかもな』
『人が増えないうちに、さっさと父さんの家に向かおう』
俺は《俺》たちが喋るのをただ聞いていた。
汽笛が鳴り響き、電車が石橋の下をくぐる。
外の景色が遮られ、窓に映る《俺》たちの顔が、元の俺の顔に置き換わった。
混み合う車内で一人、重たい荷物を抱え、退屈そうに押し黙る俺――沖倉駆と目が合う。
三両編成の古そうな電車が、乗客の重さに耐えられないというように、軋みながら停車する。
『日乃出浜港駅』
日の沈む日本海の港町なのに、日の出。あべこべな印象を受ける地名。
電車が止まり人が動き出すと、俺もその流れに乗って電車を降りる。
花火が打ち上がり、前をゆく乗客が歓声を上げながら立ち止まった。
俺は歩みを止めず、視線を足元に向け、空いている僅かなスペースを見つけて、ごったがえす人々の間を抜けていく。
まるで幽霊か、透明人間にでもなったかのように。
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