33:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/07(日) 11:02:03.78 ID:4h98r15f0
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その帰り道のことだった。
『見ろよ、夕日が綺麗だ』
《俺》に声を掛けられ、俺はそちらから肩を叩かれたように、海へと視線を向けた。
岸に泊められた船舶の向こうで、赤々と輝く、大きな太陽。
逆光の中を影絵となって飛び交う、悠然たる鳶。
絶えることのない波音。
風に運ばれてくる、強い潮の香り。
『こんないい景色がすぐ横にあるのに、素通りしようとするんだもんな』
仕方ないだろう、考え事をしていたんだ。
『考え事か。《俺》たちにも黙って、何をそんなに?』
揶揄うような《俺》の問いに、はっと、胸を突かれたような気持ちになる。
気づけば、古の哲学者にでもなったみたいに、一心不乱に歩いていた。
誘いを断り、逃げるように別れてから、ここまでずっと。
沈みゆく夕日に目をくれることなく、《俺》たちの声に耳を傾けることもなく。
俺は、ただ、彼女のことを。
彼女の未来や、願いや、大切な友人たちとの関係について。
考えていたのは、そんな、他の何でもない。
透子のことばかりだった。
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