57:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/07(日) 13:21:28.27 ID:4h98r15f0
「………………」
何も言わず、俺は草の上に寝転がり、目を閉じる。
すると、それがここでの作法と思ってくれたのか、透子も同じように横になった。
夏草のベッドがさわさわと涼やかな音を立てる。
風に乗って透子の呼吸が伝わる。
緊張から解放された心地よさと、透子がそばにいる安心感で胸がいっぱいになる。
ほどなくして、俺はまどろみの中へと落ちていった。
……そうして、どれくらい経っただろう……。
指先に何かが当たったような感触がした。
がさがさ、と透子が慌てて起き上がる音が聞こえる。
「ん……?」
俺が目を開けて身体を起こしたときには、既に透子は立ち上がっていた。
「今日はありがとう。すっごくおいしかった。お父さんによろしく。私このまま帰ります。さようなら」
箇条書きにされたメモを読み上げるように言って、透子はぱたぱたと元来た道を走っていく。
俺は何か言わなければと口を開くが、結局、ぼんやりと見送ることしかできなかった。
透子を引き留めるための適切な言葉が出てこなかった。
でも、それも当然かもしれない。
確固とした理由や口実なんて、初めからありはしないのだから。
ただ、もう少し君とここにいたかった――なんて。
俺の胸にあったのは、そんな漠然とした気持ち一つ。
そんなもの、そのまま本人に伝えられるはずもなく。
「……透子の用事、まだ聞いてないぞ」
もう見えない透子の背中に向かって、ぽつりと、俺は未練がましく呟いた。
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