58:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/09(火) 11:37:03.76 ID:W+HAaMa50
†
あの夏祭りでの出来事は、俺のその後に大きな影響を与え、また様々なものをもたらした。
そのうち一つは、不思議な《声》――《未来の欠片》。
もう一つは、《俺》という存在だ。
初めて《俺》が現れたのは、移動中だった。
古い街を去り、新しい街へ向かう道すがら。
俺は母さんの運転する車の助手席で、あの夏祭りのことや、その帰り道で聞こえたよくわからない《声》、そしてその《声》が時を置いて実際の俺自身の声になったことなんかを、とりとめもなく考えていた――そのときだった。
『あの《声》は、先のことを暗示する予知夢みたいなものなのかもな』
サイドミラーに映る自分が、こちらに向かって話しかけてきた。
『もしくは、俺の秘められた能力が目覚めたのかもしれない』
その《俺》は、俺の頭の中の、浮かんでは沈む思考の断片を掬っているようだった。さらに、
『未来の《声》をラジオのように受信する力、とかか?』
最初の《俺》とは微妙に違う《俺》が、《俺》と意見交換を始める。
《俺》たちの議論を聞くうちに、俺は自分の中で考えが整理されていくように感じた。
『まあ、なんにせよ情報が足りないな』
『同じようなことがまた起きれば、いずれあれがなんなのかもわかるだろう』
それからというもの、《俺》たちはわりと頻繁に現れるようになった。
あの《声》に《未来の欠片》という名称をつけたのも、《俺》たちがきっかけだった。
今となっては、《俺》たちは俺の一番の友人といっていいくらい、ごく自然に俺とともにある。
何か大きな問題に直面したときや、一人では抱えきれない感情の揺らぎが生じたときに、俺と《俺》たちはその負荷を等分して、俺自身の負担を軽減する。
透子が、何かややこしい出来事があると、急に饒舌になって動揺を紛らわせようとするのと同じ。
胸に収まりきらない気持ちを、それでも自分の中に閉じ込めようと、足掻いた結果なのだった。
171Res/212.06 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20