59:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/09(火) 11:44:25.46 ID:W+HAaMa50
<第6話 パンチ>
透子に驚愕されたテント生活だが、利点を一つ挙げるなら、目覚まし時計が要らないことだろう。
なにしろ幕一枚隔てた先は屋外だ。自然と、日の出と目覚めが同期する。
いつものようにのそのそとテントを出て、庭の水道で顔を洗う。
すると、水音に交ざって、ピアノの音色が耳に届いた。
栓を締めて水を止める。リビングから漏れるのは、母さんの夜想曲。
《――駆くん――》
聞こえてくる《未来の欠片》――透子の《声》。
下の名前で呼ばれたことなど一度もないのに、不思議としっくりくる。
これは確定した未来だろうか?
それとも、俺の願望だろうか?
浅い眠りから目覚めた朝に夢の続きを求めるように、俺はピアノの音のするほうへ向かう。
リビングに上がると、父さんがパイプをくゆらせていた。
「おはよう」
「おはよう。起こしたかな?」
「……いや」
なおざりな返事をして、俺はオーディオプレーヤーに目をやり、耳を澄ます。
《――そこにいたの?――》
弾むような、透子の《声》。
《――探しちゃった――》
……自分でも、よくわからない。
《――俺はずっとここにいた――》
俺は《未来の欠片》を聞きたいのか?
それとも、透子の声を聞きたいのか?
いくら《未来の欠片》に耳を傾けても、答えは出てきそうにない。
「ん……?」
プレーヤーを見つめたまま佇む俺に、父さんが不思議そうに首をかしげる。
「……まだ、少し眠いかな」
考えが纏まらない言い訳のように、俺はそう返した。
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