6:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/03(水) 20:35:08.72 ID:DvK9a+dU0
「ありがとうございます」
先生が校舎へ戻っていくのを見届けてから、俺はスケッチを続ける彼女の隣に、ゆっくりと腰掛けた。
「面倒だよね。転校って」
こういう雑談はそれなりに得意だと思っている。ひとまずは、様子見だ。
「何年生?」
彼女はあまり警戒することもなく、自然に話題に乗ってきた。
「三年」
「同じなんだ。三年で転校って大変だねえ」
相手に合わせているというよりは、心から共感しているような言い方。素直な子なのだろう。話しやすい、と感じる。
「名前、なに?」
「深水透子」
フカミ、トウコ――綺麗な響きだと思った。
ガラスとガラスが優しく触れ合う、風鈴の音色のような響き。
「トウコ」
気づくと、俺はその名を口にしていた。
いきなりの呼び捨てに、彼女――トウコが困惑するのが伝わってくる。
けれど、トウコは気恥ずかしそうにするだけで、俺に対して線を引いたり壁を設けたりはしなかった。
やはり、ちょっと変わった子だ。もちろん、いい意味で。
「この間、花火大会の日、君を見た。鈴、買ってたよね」
やや踏み込んだ言い方をしてみる。
どうだろう、さすがに不審がられるだろうか?
俺はちらりと、トウコの表情を伺う。すると――。
「あっ、待って、ジョナサン!」
トウコは急に立ち上がって、校庭に放し飼いにされている五羽の鶏のうち、デッサン対象なのだろう一羽のところへ走っていく。
「ジョナサン?」
何気ない問いかけだったが、トウコはこの鶏たちを可愛がっているのか、詳しく教えてくれた。
「鶏の名前。他にもフッサール、孔子、ロジャー、真葛がいるの。学校のみんなで飼ってるんだけど、一番世話してるのは倫理の先生かな。ジョナサンだけは他から来た子なんだけどね」
171Res/212.06 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20