7:名無しNIPPER[sage saga]
2019/04/03(水) 20:44:27.48 ID:DvK9a+dU0
『他から来た子』――その単語が、胸の奥に無断で手を突っ込まれたように、嫌に耳についた。
「……だから一羽だけ浮いてるのか」
少し暗い調子でそう呟いた俺に、トウコが不思議そうに振り返る。だが、俺が何も言わないでいると、彼女はまたデッサンに戻った。
「放し飼いだから、描きづらいったらないのよ」
「なら、小屋に入れればいいのに」
トウコに悪気はないとわかっている。なのに、どうしても言葉に棘が出てしまう。気を落ち着かせなくては。俺は立ち上がり、ジョナサンなる鶏をよく見てみようと歩み寄る。
「私の勝手で小屋に入れるなんてできないよ。かわいそうだし」
何気なくそう呟く、トウコ。
「なんでジョナサン逃げないの? すごいね」
確かに、ジョナサンは俺が近づいても反応らしい反応を見せない。
いや、それよりも、俺はまた彼女の言葉に引っかかりを感じてしまう。
「……かわいそう?」
それはつまり、小屋に入れるのを良しとは思ってないということ。
言い換えれば、放し飼いの肯定だ。
けれど、彼女はきっと、知らない。
「好きなとこ歩けたほうがいいでしょ?」
色んな街を見られて楽しそう、自由な生活が羨ましい――誰もが口々に言った。
「それはトウコの価値観だろ」
あてどもなく歩き回ることが、いいことばかりとは限らない。
小屋の中での生活だって、そう悪いことばかりじゃないはずだ。
一つの場所に留まる人々ほど、そのかけがえのなさに気づかない。
「ええっと、自分から檻に入る動物なんていないし……」
「それは彼らに、選択肢が不足しているからだよ」
生まれてからずっと同じ街に住み続けるのか。
それとも、飛び回るように様々な街を移り住むのか。
子供の俺には、母さんについていく以外の選択肢はなかった。
それが間違っていたとは思わない。
けれど、もしも、自分の意思でどちらかを選べたなら。
あんな経験をすることもなかったんじゃないか?
仮にしたとしても、それは俺自身で選択した結果なのだと、納得できたんじゃないだろうか?
171Res/212.06 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20