17: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:38:35.89 ID:zJUkddjZ0
「俺が引き受けた依頼と、その結末をいくつか話そう」
一つは家族を皆殺しにされた少年が復讐を誓い、鍛錬を積み、さらに助けとして俺を雇った時のこと。途中で俺は犯人の正体に気づいた。殺されたはずの少年の姉が、魔に心を呑み込まれて変わり果て、少年以外を皆殺しにしたことに。
少年は自分の手で犯人を[ピーーー]ことを何年も夢見ていたが、俺は少年に姉殺しをさせるのはどうかと思い、依頼を無視して俺がこの手で殺した。正気を失った少年は俺に襲いかかるが、敵わない。そして俺に吹き飛ばされ、怒りと無力感でさらに正気を失いかけたよりによってその目の前で、異形と化していた姉が元の姿に戻ってしまった。無残な死体の姿でな。
少年は喉が裂けるほどの絶叫をあげた。そしてその場は、濃厚な魔で満ちたままだった。吸い込まれるように魔は少年の体に潜り込み、俺の前で見る見るうちに、姉以上の異形の姿へと成り果てていった。
そして、俺に殺された。
「……」
もう一つは、ある令嬢からの依頼だった。使用人と恋に落ちた令嬢は、駆け落ちの手助けを俺に依頼した。依頼の途中で、また気づいてしまった。使用人は敵対する家の手先で、駆け落ちのフリをして令嬢を連れ出して人質にとるつもりなことを。
その時点で使用人を殴って気絶でもさせて、令嬢を家に戻せば良かった。
けど令嬢はどうにも本当に使用人に惚れこんでいるようだった。使用人が心変わりするのではと考えて、俺は最後の最後まで待つことにした。
結果そんなことは起きず、敵対する家の兵士に周囲を囲ませ、令嬢に対して『頭の中がハチミツでできている』『オマエが普段からくだらない歌や本を通して待ち望んでいた言葉なんて、少し考えればわかるんだよ』などと笑いながら抜かした。
だから、令嬢の前で斬ってあげた。
しかしどうやら令嬢にとってはそれでも使用人は大切な男だったようで、気が狂ったように暴れだすんだ。
周りの兵士を片づけて、俺の頬やら何やらに爪を立てる令嬢を肩に抱えて家に戻しに行ったが、誘拐犯の一人として弓を向けられることになる。
「……」
「今回もそうだ。他よりもだいぶマシだが、助けたアンタに憎まれ、頬を叩かれた」
「それは……っ」
慌てる妹に、静かに首を振る。
「別に責めているわけなんかじゃない。きっと、悪いのは俺なんだろう。もう自由になって何年も経つのに、未だに誰もがわかることがわからない」
「……わからないって?」
「――俺には、愛がわからない」
愛情を向けられたことが、与えられたことがないからわからない。
「見よう見た目な俺の愛はいくらか似ているから、かえって歪なものに成り果てる」
悪意以上に周りへの不快感と、最悪の結果をもたらす。
「俺の愛は――」
貴方の愛は――
『致命的なまでにズレている』
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