16: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:38:01.78 ID:zJUkddjZ0
俺に礼を言えないことなど、どうでも良かった。
そんなことよりも注目すべきことがあるのだから。
「俺に礼を言わなければならない。助けてもらったのに非難したことを謝らなければならない。けどこんな奴に、そんなことしたくない。でもしなければならない。そして――命の恩人に、形だけの礼なんて失礼極まりないことをするわけにもいかず、固まっている」
「……っ」
「別に礼を言う必要は無い。ここまで誠意を見せてもらったのは、ずいぶんと久しぶりだから」
そう言って荷物を肩にかけ歩き出そうとすると、妹が前に立ち塞がった。
咄嗟の事かと思いきや、その瞳は真っ直ぐに俺を見ていた。腹が据わったか。
「盗賊団はこの街を去る時に火を放ったため、街の兵士は私たちをすぐに助けに来ることはできませんでした。さらに討伐に必要な数と、襲撃に遭ったばかりの街の人々と旅人を安心させる防衛の数、その二つを準備するのに時を用します」
誰かに教えられたのか、救い出されてから冷静になって自分で気づけたことなのか。妹は自分がどういう状況だったのかゆっくりと、力強く話す。
「また盗賊団の拠点はここから遠く、いくつかの領地を武装した兵士を越えさせなければなりませんでした。その折衝でさらに時間がかかり、討伐の兵士たちが到着する頃にはとっくに逃げ出していたことでしょう」
ゆっくりと、ぎこちなく。だが確かに妹は深々と、その頭を下げた。
「貴方がいなければ、私たち姉妹は延々と慰み者にされ、やがて殺されるか売り飛ばされていたでしょう。ありがとう――ございました」
絞り出すような謝意であった。
屈辱と嫌悪は見て取れた。だがそれは隠しきれずに見えるものではなかった。それ以上の感謝の気持ちで押さえつけ、どうしようもなくこぼれたモノが見えた程度。
決して、嫌々したわけではないことがわかる。
「そうか……そう言ってもらえれば、引き受けた甲斐があった」
今度こそ立ち去ろうと一歩踏み出す。しかし。
「……いつも、こうなんですか?」
「……何がだ?」
やるせないその声に、再び引き留められた。
「みんな、貴方に早く出て行って欲しいと言っている。さっさと旅立ってくれて良かったって。貴方は、私たちに悪いことなんて何もしていない。貴方は、私たちのために戦ってくれたのに」
そして、一番助けてもらった私ですら、そう思ってしまう。
悔しそうに、恥ずかしそうに、耐え切れないように。唇を噛みしめながら、妹は自分も含めて街の者たちを糾弾した。
それは、仕方がないことなのに。
「昔、誰かが言ってくれたよ。『貴方の愛は致命的なまでにズレている』と」
「……どういう意味?」
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