何も無いロレンシア
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58: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:22:11.74 ID:zJUkddjZ0
 ロレンシアはドアを蹴破るや否や、身に着けていた黒い外套を前へと投げ飛ばしていた。武器は無い。必要無い。この至近距離で、プレートメイルを身に着けた鈍重な相手に必要なのは剣では無い。

 自ら投げた外套の下をくぐるように行われた低空のタックル。重い甲冑を身に着けた大男を一度倒した後、立ち上がるのを許すほど“何も無い”ロレンシアは甘くない。

 二人の動きを横手から見ていたア―ソンはロレンシアの勝ちを確信し、残ったロレンシアをどう処理するか半ば考え始めていた。

 故に、外套で視界を遮られていたフィアンマが、足払いの要領でロレンシアの顔目がけて石突を繰り出した事はロレンシアではなくア―ソンの方が驚いた。

 フィアンマの判断は迅速で、そして正確だった。

 外套で視界を遮られているのはロレンシアも同じこと。外套ごしの正確な距離がわからない状態で、剣でプレートメイル相手に有効打を放つのはロレンシアであっても至難の技であることを瞬時に計算し、フィアンマはロレンシアの狙いが組討ちであると読んだ。そして外套を投げつけるという上方へ注意を逸らす手段を取った以上、残された選択肢は一つだけだった。身長一七〇半ば、体重およそ七十五の革鎧を身に着けた男が繰り出す最高レベルのタックルを脳内で描き、その顔面があるであろう場所めがけて石突を放ったのだ。

 奇策で距離を詰め、槍の距離では無くしたロレンシア。一方後手に回りはしたが、迅速で正確な判断で迎撃を行うフィアンマ。

 ロレンシアが薙ぎ払いで吹き飛ばされてから、わずか数秒で起きた攻防。天秤はどちらにも傾きはしなかった。

 ロレンシアは石突で頬を打ち払われたが、咄嗟に放たれたものであったため本来の威力ではなく、顎骨が折れるにとどまった。勢いは減じたものの、そのままフィアンマの足へと飛びかかる。

 一方のフィアンマは右足を大きく後ろに後退させ重心を下げる。

 フィアンマの押し潰そうとする動きにロレンシアはひるむことなく、ふくらはぎと膝裏を掴みつつ勢いのまま肩で相手の上半身を押しやった。

(……ッ!? そうか、コイツは!!)

 ロレンシアと接触したフィアンマに身の毛がよだつ感触が生じる。直感的にロレンシアの痛覚がほとんど無いことを悟ってしまった故に。

 状況は拮抗していた。体重と力はフィアンマが上なことに加えて、ロレンシアは右腕の骨にヒビが入り、顎骨が折れた衝撃で視界もぶれている。だが体勢はロレンシアが有利で、軽くは無いダメージもロレンシアに痛覚はほとんど無く、視界のぶれも組討ちに持ち込めたため悪影響は少ない。さらにフィアンマのすぐ後ろは階段のため下がれないという、位置による優勢もあった。

 このまま押しやって階段に突き落とそうとするロレンシアに、槍を持ったままフィアンマが肘を腰目がけて打ち下ろそうとした時だった。

 いくつもの修羅場をくぐり抜けていた両者は、周囲の異音からこのままだと共倒れになることを察し、同時に力を抜く。

 組討ちに入って以降、深緑の蛇たちは漁夫の利を狙うために襲いかかることを止め、その代わりに発生源であるア―ソンから増え続け、二人の周りを蠢きながら囲っていた。そして絡まり、噛み、喰らい、入り込み、巣食おうと虎視眈々とその機を狙っていた。そして気が逸ってしまった。

 “深緑”のア―ソン。魔に心を呑まれて二年になる。魔に心を呑まれてからは何十という争いを経験した。しかし元々は村はずれで暗く陰気な想いを抱えていた一人の男にすぎず、生物としての強さは圧倒していたが、技術や経験値は残る二人に比べて大きく劣っていた。そして襲うべきではないタイミングで、蛇たちをけしかけてしまう。

 その瞬間、フィアンマとロレンシアは互いに向けていた力を全て周りにぶつけた


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