59: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:22:44.75 ID:zJUkddjZ0
フィアンマは蛇を処理するにあたって、槍を直撃させずかすめる方法をとっていた。なぜなら床や壁をつたう蛇に直撃させれば、瞬刺殺の尋常ではない威力の余波が建物を傷め、自分にとって優位な戦場を失ってしまう可能性があったからだ。
だがそれを抜きにしても、“深緑”のア―ソン“血まみれの暴虐”フィアンマ、そして“何も無い”ロレンシアという規格外同士の戦いは、開始から一分に満たない間に建物へかつてない衝撃を与えていた。そして今、戦いの余波ではなくフィアンマとロレンシアが建物の破壊を目的として、そのあらん限りの力を床に放つ。
二人のいた周囲の床は、フィアンマが瞬刺殺を放つための踏み込みで特にダメージを受けていた場所でもあった。前後左右のみならず、天井からも含めて百を超える蛇がその身をくねらせ迫る中、軋む異音と共に二人は落下する。蛇たちも一点の穴に流れる水のように二人へ続くが、先ほどまでとは違い囲んでいるわけではなく、同じ方向から固まった状態での襲撃など二人にとって脅威ではなかった。
その身を宙に躍らせながらロレンシアは腰から剣を抜き放つ。足場が無く力を乗せられないなかで、剣と技の鋭さで蛇たちを次々と捌く。
同じく宙に舞いながらフィアンマは、上半身の捻りと腕力のみで皆殺朱を振るい蛇たちを貫き、あるいは殴[ピーーー]る。その余波は遠慮なく天井と壁に襲いかかる。
そしてフィアンマの長い足が、ロレンシアよりほんの少し早く一階の床につき――それと同時、地に足が着く寸前のロレンシアへと強力な薙ぎ払いを放つ。狙いを読んでいたロレンシアは剣の鞘を腰から外し、剣と共に二重で受けたがその衝撃はすさまじく、すでにボロボロであった壁を突き破って外へと放り出された。
矢のように吹き飛ばされ、ロレンシアは三軒離れた木製の小屋に貼り付けとなる。宿屋の騒動に何事かと離れて見守っていた付近の住人たちは、まさか中から飛んできた物体が人間であったとは思わず貼り付けの罪人の姿に目を剥く。そこからさらに、即死もあり得るほどの勢いで貼り付けになった男が、何事も無かったかのように淡々とめり込んだ壁から体を抜く光景は驚くを超えて恐怖すら覚えた。
倒壊による轟音が鳴り響く中で、傷だらけの罪人が大地に降り立つ。
ロレンシアは握りしめたままであった鞘を投げ捨てつつ、自分が飛び出たことを契機に崩れ始めた宿屋へと険しい目を向ける。そして手を何度か握りしめて正常に動くかを確認しつつ、これといった気負いも見せずに再び戦場へと歩きだす。
誰もロレンシアに声をかけることなどできなかった。
自分の傷への無頓着さ。それにも関わらずあふれる殺気。殺気があふれているにも関わらず、悠々とした歩き。どれもこれもが繋がりがない。
痛いから傷つけられたから、怒りと憎しみを抱き、殺気が増すのではないのか。殺気が増したのならば、その歩みは自然と荒く速くなるのではないか。
幽鬼の如き目の前の存在を疑う不確かさと、切っ先の折れた刃のようにそれでもなお残る不穏さを、住民たちは一目で無理矢理わからさせられたのだ。
一方で木くずと砂煙が舞い降るなかで、瓦礫の破片を踏みしめながらロレンシアを待ち受ける二人は納得していた。
なるほど、これが“何も無い”ロレンシアなのかと。
83Res/189.22 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20