何も無いロレンシア
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64: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:25:53.30 ID:zJUkddjZ0
 馬鹿げた行いに目を剥く。毒の中に身をさらしての奇襲など、完全に想定外だった。既にその体は毒に侵されていたが、あくまでそれは少量。助かる可能性はわずかだがあった。その可能性を奇襲の機会を見つけるや否や投げ捨てるなど、人間の発想ではない。

 フィアンマは槍で近づいてくる蛇を処理しながら、投てきはガントレットで弾く算段していた。完全に意表を突かれたフィアンマには、毒の霧を隠れ蓑に接近したロレンシアへの打つ手が無かった。何をしでかすかわからない相手だと、わかっていたにも関わらず。

 ロレンシアは猫科の獣のようにその身を宙に躍らせながら、ナイフをフィアンマの喉元へと奔らせる。ナイフは兜とプレートメイルの隙間をかいくぐり、下に着けていたクロスアーマーを貫いた。

「カヒュ……ッ」

 フィアンマの止めていた呼気が漏れるとともに、口元から血がこぼれる。この戦いが始まって受けた初のダメージは、頸動脈を切られるという致命的なものだった。

 横から一陣の風が吹き、毒の霧が払われる。それに応じるようにロレンシアはつかみかかっていたフィアンマの巨体を蹴り、傷口をえぐりながら反動でその場から離れた。よろめきながら膝をつくフィアンマに背中を見せ、ロレンシアは毒の影響で涙を流しながらア―ソンと相対する。

 その見向きもしない態度は、フィアンマのプライドを逆なでにした。その獰猛な気迫に群がろうとしていた蛇たちは怖気づき、次の瞬間にはフィアンマが渾身の力で立ちあがる衝撃で吹き飛ばされる。

「この……ゴミ、クズ……風情、が!!」

 フィアンマは勢いよく首から血が噴出する中で、これが最後の一撃になるであろうことをどこか冷静に悟っていた。そしてその一撃を、自分に背中を見せて走るという最大級の侮辱をくれた畜生へと撃たんと走り出す。

「マ、待テ……ッ!」

「[ピーーー]ぇい!!」

 怒り心頭に発するフィアンマに、その甲高くくぐもった声は耳に入らなかった。最後となる瞬刺殺を放つと同時に、その結果を見ることなく永遠に意識を手放す。

 後ろから放たれた最後の瞬刺殺は、ロレンシアにとってかろうじて回避できるものだった。怒りと殺意を隠そうともしないため放たれる瞬間がわかり、斜め前に飛びながら身をひねる。本来の威力ではなかったこともあり、かわし切れずに脇腹の肉をもっていかれる程度ですんだ。ア―ソンは、その程度ではすまなかった。

 槍の穂先がロレンシアと重なって読めず、怒りと殺意から瞬刺殺が放たれる瞬間を読み取る技術も無い。瞬刺殺が放たれる前に横へ逃げようとしたが瞬時にロレンシアが方向を変え、常にフィアンマと重なった状態を保ち続けた。そしてそんなことが起きている事など、激しい失血と怒りで視野が狭くなっていたフィアンマは気にも留めなかった。

 こうして最後の瞬刺殺はロレンシアの脇腹をえぐりつつ、ア―ソンの胸に大穴を開けた。さらに皆殺朱は死んだフィアンマの手元から離れ、十三キロの重量としてア―ソンの動きを縛る。


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