何も無いロレンシア
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63: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:25:21.55 ID:zJUkddjZ0
「……クキ、キカカカカッ」

 最初は呆気にとられていたア―ソンだが、やがて例の甲高いのにくぐもった耳障りな嗤いを立てる。

「サ、流石“何モ無イ”ロレンシア……ッ! ダガ、終ワリダ! 私ノ蛇ハ……優シサモ甘サモ無イ! ホンノ少シノ毒デモ、十分ダ! オマエハ即死ジャナイダケ……ダ!!」

 その宣告はブラフなのか、事実なのか。

 たとえブラフだと判断しても、ア―ソンの隣にいる男の死にざまを見れば動揺せざるを得ない。

 だがロレンシアはただ静かに、えぐってしまった左腕がどの程度動くかを黙々と確認していた。恐怖に怯えない獲物の姿にア―ソンは不快げに眉(らしきもの)をしかめるが、すぐに気を取り直す。

 右腕の骨はフィアンマの薙ぎ払いを受けヒビが入り、左腕の肉は自らえぐってしまった。顎骨と頬骨は折れ、左目はつぶれ、全身も殴打し、さらに少量とはいえ猛毒が入り込んでいる。持っていた二つの剣も一つは宿屋で下敷きになり、もう一つはロレンシアから離れたところに転がっている。それに対してア―ソンもフィアンマもほぼ無傷。ロレンシアの死は確定したと言っても過言ではないのだから。

 その判断はフィアンマも同じだったが、自分からロレンシアにとどめを刺そうとは思わなかった。下手にとどめを刺そうとすれば、何をしでかすかわからない男だからだ。放っておいても毒で死ぬのならばと、最低限の注意だけは払いつつア―ソンへと槍の穂先を向けた。

 フィアンマはそこで違和感に気づく。何かがおかしかった。ア―ソンか? いや、ア―ソンではない。この穢らわしい蛇男は、宿屋が崩れて着地して以降一歩も動いていない。

 だが何かが動いているような気がしてならなかった。深緑の蛇たちは当然として、それ以外の何かが動いている。ここでフィアンマは、風上のア―ソンの方から風にのってナニかが膨らむ不快な音色を聞き取った。そして違和感の正体に気づき、不可解な不快な現象への反射で後ろに大きく飛び下がる。

 違和感の正体は蛇に噛まれて死んだ男だった。緑色に膨れ上がった死体の位置が、ひそかにフィアンマに近づいてきていたのだ。見れば男の顔は蛇に成り果てており、手足は胴体に密着してその境が消失している。

 巨大な蛇らしき物体は、逃げるフィアンマに糸で引かれるように追いすがり、そのぶよぶよとした体を宙に躍らせる。そこで一際大きく体を膨らませた。

「――インサニティ・ボム」

 ア―ソンの呟き声と共に蛇らしき物体は爆発し、黒と見まがう緑色の液体を辺り一面にまき散らした。液体はすぐに気化していくが、それでもなお飛沫として残ったものが空気を緑色に穢しながらフィアンマへと飛び散っていく。

 襲い来る飛沫にフィアンマは目の付近を腕で覆い、さらに息を止めた。飛沫はプレートメイルを溶かし、目と鼻の距離で有毒の気体を次々と生み出す。吸うことはおろか、目に触れさせてもならないと察し目を細める。しかしその程度では、風上からさらに毒が流れ込み周囲の緑が濃くなっていく事態への気休めに過ぎなかった。さらに追い打ちとして四方から蛇が這いずる音が近づいてくる。

 なんとしてもこの場を離れなければならないが、問題はロレンシアだった。三つ巴の戦いが始まって以降、ロレンシアは徹底してフィアンマに狙いを定めている。これをフィアンマは、ロレンシアが既にア―ソンへの回答を持っている、ないしは持っていると思い込んでいるからだと見ていた。そしてこの期に及んでなお勝利を諦めていないのならば、視界が不明瞭なこの機に乗じて仕掛けてくるはず。

 まず考えられるのはナイフの投てきだ。両腕ともボロボロの状態だが、それでもロレンシアなら毒の霧越しでも正確に狙いを定めることも可能だろう。とはいってもしょせんはナイフ。少し体を動かして狙いをずらしさえすれば鎧で弾けるので問題無い。

 となると重量のあるものの投てきが予想される。宿屋の倒壊により、適当な大きさと重さの物はそこら中にある。何が投げ込まれても対応できるように、槍で近づいてくる蛇を処理しつつすり足で移動していると、ついにそれは現れた。

 毒の霧の中から――ロレンシア自身が現れた。

「バッ……!」


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