10: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 08:55:03.24 ID:iX/HvtXE0
二
冷房のひんやりした空気に飽きてベランダに出ると、地平の果てに太陽が沈んでいくのが見えた。
眼下にひろがる巨大な街が、真夏の夕焼けにまんべんなく染まっていた。
もう、あれから二年半になる。
ここから眺める景色も、見慣れてしまった。
「なんやえろう眩しいなぁ」
背後で紗枝ちゃんの声が聞こえた。
と思うと彼女はすでに私の横に並んで立っていた。
冷房のために冷えた細い腕を、夏の大気に馴染ませるようにさすりながら、そうして眩しそうに夕日を眺めているのだった。
先ほどまで紗枝ちゃんと楽しく話していた故郷の思い出が、なぜだか急に懐かしいものとして私の心に蘇ってくる。長い夢を見ていたような気さえするほどに。
「ゆかりはんの部屋、見晴らしええんやなぁ……こんな真っ赤な夕日、久々に見たわ」
「そうなんですか?」
「うちの部屋、東向きやし、景色いうても周りが背の高いびるばかりで味気ないんどす」
「でも、この部屋は陽が射して暑いですよ」
「うちの部屋かてべつに涼しいわけやあらへんもん」
「そういうものでしょうか」
しめった風が吹いて私と紗枝ちゃんの髪をなびかせる。
このベランダに吹く風はいつも、東京の街の喧騒と臭いを一緒くたに運んでくる、そしてそれがこの時だけは、なんだか物憂げな、切ないような倦怠を私の胸のうちに呼び覚ますのだった。
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