11: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 08:55:44.98 ID:iX/HvtXE0
「今日は長いこと話し込んでもうて、かんにんな」
「いえ、私の方こそ、たくさんお話できて楽しかったです」
「うちも暇ができたら青森行ってみたいわぁ。そしたらゆかりはんのその立派なお屋敷も遊びに行けるやろか」
「もちろん、歓迎しますよ」
紗枝ちゃんはベランダの手すりの上に腕を重ねて、その手の甲に、気だるげに顎を乗せながら「はぁ」と小さく溜め息をついた。
夕日の赤がもろに彼女の顔に当たって輝いていた。
斜陽、そんな言葉が、不意に頭の中にひらめいた。
……この二年半、細々と続けていたアイドルのお仕事は、けっして華やかなだけではなかった。
むしろ私にとっては、華やかさとは無縁の、地道な、泥くさい日々ばかりが思い返される。
グループで一人だけ遅れを取って、夜、居残りで曲の振り付けを練習した日々。
人前できちんとお話ができるように、テレビやラジオ番組のトークに合わせてしゃべる練習をしてみたりもした。
野外のイベントで通りすがりの人にやじられたり、握手会で露骨に自分のスペースだけ人が集まらない事も少なくなかった。
報われない自分の惨めさに、涙をこぼした日だってある。
けれど、私はそれで後悔したことは一度もなかった。
それはもしかすると、私がアイドルというお仕事を楽しんでいたからかもしれないし、あるいはそんな不条理な世界に対する免疫が元々私の中に備わっていたからかもしれない。
どちらにせよ、私は今日までアイドルを続けることができた。
同期の、他のアイドルたちが次々に辞めていっても、私は自分のステージを夢見るのをやめなかった、それはともすれば私が初めてフルートを学び音曲の世界に足を踏み入れたその時からずっと夢見ていた場所と、少しも違わないような気がするのだった。
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