103: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:14:45.34 ID:iX/HvtXE0
私たちはお互いになんとも言い出しかねて、まるで建物に立ち入るのを渋るかのように庭の辺りをうろうろしていた。
かと言ってベンチに座り込む気にもなれず、そうして歩きながら本当に話したい事とは全然関係ないような事ばかりしゃべっていた。
が、結局、私たちは気付かないうちに入口のポーチの前に流れ着くようにして立っていた。
私たちはつい顔を見合わせて、それから、ふふ、と笑った。恩師の元を訪ねるようなものだと……緊張はあっても不安はない、そう考えるといくぶん気が楽になった。
重たい扉を開けると、中はしんと静まり返っていた。
入ってすぐ横に窓口があり、そこでは明かりだけが煌々と灯っていて、人の姿はなかった。
呼び鈴を鳴らすかどうか迷ったけれど、紗枝ちゃんが「入場無料みたいやし別にええんとちゃう?」と言うので、私たちはそのまま靴を脱いで中に上がり込んだ。
見たところ私たちの他に客はいないらしかった。
スリッパの擦れる音が二人分、薄暗い廊下に響いた。
「静かだね……」
「ん……」
撮影の風景ばかり記憶していたせいで、こうして再び中を見渡してもあまり懐かしいという感じがしなかった。
それに、内装も微妙に違っている。
あの時には無かったものが――いくつかの写真と歴史資料の展示物が――廊下の壁に掲げられていた。
私たちは、あたかもそうすることで私たちの思い出をこの空間に馴染ませることができるとでも言うように、それら一つ一つをじっくりと見ながら進んで行った……が、結局、その行為はかえって私たちに余所余所しい思いばかりを募らせていった。
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