104: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:15:34.54 ID:iX/HvtXE0
こうした違和感は決して私たちを戸惑わせはしなかったけれど、どこか失望にも似た諦めが頭をもたげてきたのも確かだった。
しかし一階の応接間に入った瞬間、思い出が向こうからぶつかってきて私は思わず立ち尽くしてしまった。
「あぁ、懐かしい……」
そう呟いたのは紗枝ちゃんだった。
懐かしい……いや、けれどよく目を凝らしてみると色々なものが私の記憶と違って見えた。
広々した部屋には見覚えのあるソファやテーブルが並んでいて、部屋の奥の古くて立派な暖炉も――以前紗枝ちゃんが珍しがって興奮していたけれど私には見慣れたようなものだったあの暖炉も――前と変わらずそのままだった。
しかしここにはカメラも照明もマイクも、舞台セット用の小道具も置かれていなかった。
今、ここにあるのは厳粛な、それでいて親しみのある静寂だけである。
ふと窓辺に目をやると、そこから差す秋の光が柔らかなカーペットの上に明るい陽だまりを描いている――そうだ、あの夏、ここは寒いくらいに冷房が効いていたのだ――私は部屋の隅々を眺め尽くしながら、そんなことをいまさら頭の裡に蘇らせていた。
これらの、思い出とはまるで違うような風景を前にして私の感傷を強く刺激したものの正体はなんだったのだろう?
もしかしたら、匂い、空気、音……どれもが心に思い当たるようで、しかしどれも違うような気がする。
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