水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
1- 20
12: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 08:56:42.02 ID:iX/HvtXE0

今年の春、私の所属していたグループが解散した。

原因は、私なんぞには分からないくらい複雑だったようだけれど、一番は、メンバーのリーダー格が引退した事が引き金になったと言われている。
でも、きっと本当のところは、売れなかった、ただその一言に尽きる、他愛もない、ありふれた理由なのかもしれない、いや、きっとそうに違いなかった。

事務所のプロデューサーさんは、グループが解散した後も私たちを励まして面倒を見てくださったけれど、大半のメンバーは、自分たちの活動が実を結ばなかったこと、厳しい競争の世界に嫌気がさしてしまったこと、そんな心境から、アイドルを辞め、事務所を去っていった。

……こうして振り返ってみると、私はむしろアイドルでありたいと願うより、アイドルを辞めたいと思うほどの理由を見つけられなかった、それだけのために今、ここにこうして紗枝ちゃんと一緒にいる、そんな気さえしてくるのだった……。


空はもうすっかり夜だった。

私は自分でもどれくらいそうしていたか分からないくらい、ぼうっとしていたらしかった。

隣りでは紗枝ちゃんが同じようにぼんやり街を眺めていた。

私たちのいるベランダには背後から部屋の明かりが漏れ出ていて、そしてそのために紗枝ちゃんの整った横顔が、今度は暗がりの中に影になって浮かんでいるのだった。
私はその何か考えにふけっているような紗枝ちゃんの物憂げな横顔をしばらくじっと見つめていた。

「綺麗ですね」

思わずそんな言葉が口をついて出た。

「ほんまやなぁ」

紗枝ちゃんはそれとは違う意味にとらえて返事をした。

実際、街は夕闇から夜へと輝き始めていた。

しかし私はそれでも尚、彼女の横顔から目を逸らすことができずにいたほどだった。



<<前のレス[*]次のレス[#]>>
192Res/249.13 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice