110: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:20:25.70 ID:iX/HvtXE0
私はその歪んだ眼差しから彼女の心を読み取ろうとした。
彼女は私を責めていた。
そして同時に、縋るような、慈悲を乞うような弱々しい希望をも私に向けていた。
私はそれにどう応えるべきだったろう?
いつもなら微笑みとキスだけで全てを赦し合えていた私たちが、この時ばかりは、言葉によってしか埋められない溝があるのだと認めないわけにはいかなかった。
そして、ああ、彼女の涙をこの手で拭うことさえできたら!
愚かな私は、それでもまだ手を伸ばせば二人の間の断絶を乗り越えられるものと信じていた。
彼女を抱きすくめ、その唇に触れさえすればすぐにでも私たちの間に失われたものを取り戻せるはずだと信じていた。
しかし結局、その願いは叶わなかった。
私の臆病な心は、彼女に手を差し伸べる勇気も、無様な弁明に言葉を尽くす覚悟もついぞ果たすことができなかった。
私はただ叱られるのを待っている、彼女が、女王のように鞭を振るうその時を、そして私を罵倒するその言葉を……その願いすら今はもう望むべくもないというのに。
そうしているうちに一階から人の声が聞こえ、それを合図に紗枝ちゃんが涙を振り切るように先にベランダを出て行ってしまった。
一人取り残された私は、彼女の後ろ姿を呆然と見送りながら、そこで初めて自分が大きな過ちを犯してしまったことに気付いたのだった。……
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