111: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:21:35.05 ID:iX/HvtXE0
「待って、紗枝ちゃん、私――」
彼女の後を追いかけて私は叫んだ。
すでに建物を出て庭を歩き過ぎようとしていた彼女が、木春菊の群がる花壇の前でぴたりと立ち止まった。
私はわずかに息せき切らせて、それからようやく、彼女の背中に向けて言った。
「ごめんなさい……私、ひどいことを」
こんな言葉で、彼女が許してくれるとは思っていなかった。
謝罪の言葉など、今となっては何の意味も持たないはずだと分かっていた。
しかしそれでも私は叫ばずにはいられなかった。
傷ついた彼女の心に寄り添うためではなく、ましてや誤解を解くためでもなく、ただ私自身、この苦しみから逃れたい一心で……。
ところが彼女はまったく思いもよらない反応を私に見せた。
立ち止まって背中を向けたままの彼女に、私はゆっくりと近づいて再び声をかけた。
「紗枝ちゃ……」
「わっ!」
私は驚きのあまり小さく飛び上がってしまった。
彼女が急に振り向き、私を驚かせたのだ。
彼女はしてやったりな顔で私を見、それからおかしそうに笑った。
「うふふ、びっくりしたやろ? お返し」
紗枝ちゃんが涙の跡を拭いながら言った。
「うちの方こそ、さっきは取り乱してもうて、ほんまに堪忍どすえ。せっかくの旅行やのに、変なごっこ遊びに付き合わせて……ちょっと面白がって、ふざけてみただけやったんどす」
私は、違う、と言いかけて口をつぐんだ。
きっと、これもまた彼女が彼女自身を救うために必要な言葉なのだろうと思ったから。
すると私はますます胸が苦しくなって、
「ごめんなさい、紗枝ちゃん……」
と、彼女の顔をまともに見みることもできず、取って付けたような謝罪の言葉を繰り返した。
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