116: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:26:46.10 ID:iX/HvtXE0
「水本さん」
レッスンが終わり、ぼうっと考え事をしていると、いつものように先生にお声をかけられた。
考え事に耽っていた私は、つい反応が遅れてしまって、はい、と返事をした後、すみません、と謝った。
先生は私のそんなぼんやりしがちな性格も元から承知の上で、そのまま話を続けられた。
「ドラマ、見たわよ」
何のことか、すぐには飲み込めなかった。
それから、ふと理解して、ありがとうございます、と答えたら、急に恥ずかしくなった。
「つたない演技で、お恥ずかしい限りです……」
「謙遜しなくていいのよ。水本さんとっても素敵だったわ」
先生はまるでご自分のことのように喜ばれて、役が合ってる、とか、演技が良かった、等、お世辞にしては褒めすぎなくらい、真面目に感想を述べてくださった。
一方、私は照れくさいやら恐れ多いやら、目を泳がせながら意味もなく鞄のアクセサリーを指先で弄って、曖昧な返事をしてばかりいた。
褒められるのは、嬉しい。
けれど、面と向かって言われるのは、やはり慣れない。
それに、あの誕生日の事件以来、私はドラマのことはあまり考えないようにしていた。
というより、意識しないうちに頭から遠ざけていたように思う。
紗枝ちゃんとの会話でもその話題が出た覚えはなかったし、気付かないうちに一種のタブーになっていたのかもしれない……
要するに私は、今の今までドラマのことなんぞすっかり忘れていたのである。
192Res/249.13 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20