117: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:27:27.55 ID:iX/HvtXE0
そんな調子だったので、先生が色々とお褒め下さっているにも関わらず、私の歯切れの悪さといったら、自分でも何をしゃべっているのか分からないくらい、支離滅裂な回答を繰り返していた。
しかしそんな私のまとまりのない思考も、先生が何気なくおっしゃった次の言葉に一瞬で釘付けになった。
「……それでね、実は娘が水本さんのファンなのよ」
「え?」
私はあからさまにうろたえて聞き返した。
先生は私の驚きを喜びの反応と捉えたらしく、そのまま続けておっしゃった。
「前の演奏会の時にね、水本さんがソロを吹いたじゃない? あれがすごく気に入ったみたいなのよ」
「娘さんが見に来ていらしたんですか?」
以前、先生に娘がいらっしゃるという話は聞いていた。
でも、その時はコンサートに連れて行くような年齢ではなかったように記憶している。
そう言ったら、「もう小学三年生よ」と返されて、びっくりしてしまった。
確かに、私が先生にお会いしてからもう二年半過ぎているのだから、その歳月だけ子供が成長するのは当然である。
しかし、それにしても月日が経つのは早いものだと、しみじみ感じずにはいられなかった。
「……そしたらアイドルの方の水本さんにも興味が移って、ほら、前に水本さんが出したCD、あれを聞かせたらこれがまた気に入っちゃってね。ライブのDVDも家でよく観てるのよ。そうしたら今度ドラマに出演するって言うじゃない? うちの子ったらすごく喜んで、楽しみにしていたんだから」
先生は、それから優しく私に微笑みかけて、
「もっと自分に自信を持ちなさい」
とおっしゃった。
私は、なんと答えて良いやら、震える声で「はい」と返事するのが精一杯だった。
帰り際、先生は例のチャーミングな笑顔で「次の演奏会もたぶん見に来ると思うから」とおっしゃって、私を応援するように小さく手を振り、見送りに出てくださった。
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