121: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:31:37.51 ID:iX/HvtXE0
電車に乗っている間も私たちはほとんど抱き合うくらいぴったりくっついて立っていた。
空いている車両の隅の方で、今度は紗枝ちゃんが私を壁に閉じ込めるように身体を寄せていた。
私たちは何をしゃべるということもなく、お互いの髪や服を手持ち無沙汰に弄ったり、綺麗な肌や顔立ちをぼんやり眺めたりしていた。
電車の揺れる動きに合わせて紗枝ちゃんの身体が重くなったり軽くなったりして、そのたびに私は言いようのない心地良さを感じたりした。
私は紗枝ちゃんの肩越しに、窓の外に移りゆく風景を眺めながら呟いた。
「……私、アイドルのお仕事も頑張ろうと思う」
彼女は、私の肩にもたれかかった頭を小さく頷かせて、「うん」と答えた。
それは、どちらかといえば空返事気味な調子で、彼女もおそらく考え事に耽っていたらしかった。
先ほどからずっと私のブラウスの襟を指でなぞっていて、視線は一点を見つめてばかりいる。
電車がゆっくりと減速し、人気のない駅に停まった。
息継ぎのような音を立てて扉が開く。
すると紗枝ちゃんが、ようやく我に返ったように顔を上げて言った。
「もしかして、あの仕事受けるつもりなん?」
乗客は一人も降りなかった。
開かれた扉の向こう、駅のプラットホームには誰もいない。
扉が閉まり、電車が再び動きだした。
私は「うん」と答えた。
紗枝ちゃんが困ったような笑みを浮かべて私を見つめた。
冗談でしょう? そんな言葉が聞こえてくるようだった。
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