127: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:37:23.24 ID:iX/HvtXE0
彼女は続けて言った。
「……ちょうど、去年の今ごろやった。覚えてる? あんさんのぐるーぷ、CDのりりーすいべんとやってて……うち、たまたま通りかかって見てたんよ。寮でよう見かける子や思て……そしたらまあ、踊りはばらばらやし、声は震えてるし、音響も進行もぐだぐだ、客は騒ぎたいだけの阿呆しかおらん。えらい愉快なお遊戯会やなぁ思て眺めてたんどす。……けどな、ゆかりはん。あんさんだけは他の子と違てた。あほみたいに必死に歌って、必死に踊って、しゃべりもぎこちなくて……うち、あんなに無様にあいどるやってる子初めて見た。目が離せんかった。知ってた? ゆかり、他の子から嫌がらせ受けてたんやで?」
「…………嘘。嫌がらせなんて、されてない」
「かわいそうな子。ほんまに、かわいそう……うちは見ててすぐ分かった。なのに当の本人は自分のことで精一杯で、周りのことなんかまるで気付かれへん……馬鹿な子やなぁって最初は思てた。けどやっぱし、目が離せんかった。不思議やった。あの子を見て、羨ましい、て思う自分が、分からんかった……そう、羨ましかったんどす。なんで自分がすてーじに立ってるかもよう分かってへんような子が、まぶしくて、羨ましくて、妬ましくてしゃあなかった……そん時に、思たんどす。あの子は、うちが守ってあげなあかん、て」
「違う、そんなの、嘘……だって、おかしいよ。私たちドラマの共演で初めて……」
「なんもおかしなことあらしまへん。おしゃべりしたんは確かにあん時が初めてやったけど、共演が決まるよりずっと前から、うちはゆかりのこと見て、知ってました。その共演にこぎつけるんも、なかなか骨が折れましたえ? ゆかりに嫌がらせした子を、一人ずつ追い詰めて辞めさせたのも、うち。あんなぐるーぷ、解散させた方が会社のためや言うて、うちのプロデューサーにも協力してもろて……どらまのお仕事も、最初はうちのとこで全部やる予定やったんどす。けど、なんとかゆかりと共演できるよう上を説得して根回しした、それも全部、うちが一人でやったこと……」
心臓がばくばくと音を立てて胸を打ちだした。
私はうまく息を吸えず、身体を屈め、まとわりつく思考を振り払うように頭を振った。
どす黒い理解が、こみ上げてくる吐き気とともに私の思い出を塗りつぶしていく。
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