129: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:39:23.76 ID:iX/HvtXE0
「……どうして、紗枝は……そんなに、私にアイドルを諦めさせたいの?」
彼女の肩がぴくりと動いた。
どうやら初めて、私の言葉にまともに耳を傾けたらしかった。
彼女は何かを飲み込むように大きく息を吸うと、泣き腫らした目を伏して、自らに問いかけるようにその胸に手をかざした。
やがてゆっくりと息を吐き出しながら、
「……怖いんどす。ゆかりが、ゆかりの綺麗な心が、あんな欲まみれの汚い世界に染められてくのを見るのが怖い。それだけやない、うちみたいなろくでなしも愛してくれるようなゆかりの純粋さが、もし壊されて失われでもしたら? きっとうちなんか、見捨てられてまう。こないな性悪女、嫌いになるに決まっとる。それがうちには何より怖い……」
「見捨てたりなんかしない。嫌いになんか、ならないよ。絶対」
その時、紗枝ちゃんの目から大粒の涙が零れて頬を伝った。
私は息を呑んだ。
彼女は微笑んでいた。
悲しげに、全てを諦めたように、私をまっすぐに見つめて……。
「ここまで言うてまだ分からんなら……やっぱし、ゆかりはあいどるに向いてへんね。けど、うちはそんなゆかりが好きやったから、守ってあげたい、そう思たんどす……ふふっ、ほんまに馬鹿やったのは、どっちなんやろなぁ」
「ねえ、私たち、まだ終わりじゃないよね? これからいくらでもやり直せるよ、だから……」
「さっきうちが言ったこと、覚えてる? ゆかりのために、身を粉にして尽くしてきた、って……ううん、ゆかりのためだけやない、自分がこの業界で生き残るために、うちが何をしてきたか、それを知ってもまだ、ゆかりはあいどる続ける言うつもりどすか? うちの犠牲も、無駄にするつもりどすか?」
「やめて。ねえ紗枝……もう、やめよう。これ以上、二人して傷つく必要なんてない!」
言いながら私は、もう後には戻れないことを悟っていた。
私は泣いていた。
そして一度、流れ出てしまえば、もう止めることはできなかった。
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