132: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:41:45.18 ID:iX/HvtXE0
が、不意に私は思い出した。
私には、まだ何者にも侵されずにいる聖域があるはずだった。
今となっては弱々しく、絶望の雨と嵐の中に霞んで消えかけていたものが、ぐったりと力の抜けた私の肩からずり落ちた勢いで、思いがけずその光を取り戻しつつあった。
私は落ちかけたケースを咄嗟に支えて胸の前に抱え込んだ。
これだけは手放してはいけない、そんな藁にもすがる思いで私は、フルートのケースを腕の中に堅く抱きしめていた。
そうして縋っていても、絶望が消えるわけではなかった。
悲しみも苦しみも和らぐことはなかった。
私はただ記憶に呼びかけられていた。
低い、地鳴りのような原初の鼓動に……
それはまるで海の底から響いてくるようだった。
私は呼びかけられるままに沈んで行った。
そうすればこの海の上の荒れ狂う嵐からも逃れられると思って。
やがて静寂が私を取り囲んだ。
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