水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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135: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:51:10.89 ID:iX/HvtXE0


   十四

一月の東京の街はひどく冷え込んでいた。

夕方、私は五時間にも及ぶ合奏練習を終え、これから帰路に着くというところだった。

講堂を出ると、火照った肌に冷たい空気が沁みて気持ち良かった。
長い間、狭いリハーサル室に籠ってフルートを吹いていたから、かえって目が覚めたような心地がする。
が、それもほんの一瞬の癒しにすぎず、私はすぐに寒さに耐えかねてコートを羽織り、鞄からマフラーを取り出して首に巻いた。
そうしてほっと一息つくと、夕闇の街に白い吐息がきらきら舞った。

季節は冬で、私はまだアイドルを続けていた。

と言っても、表舞台に立つような仕事はもう何ヶ月もしていない。
実態としてはただ会社に在籍しているだけで、活動らしい活動といえば定期の基礎レッスンくらいのものだった。
それに、私が所属しているプロジェクトも、今年度いっぱいで解体されることが決定している。
つまり、このまま何も手を打たずにいれば、私は春にはアイドルを辞めなければならないはずだった。

これに関しては、とりあえずプロデューサーさんのご厚意に預かる形で解決した。
今年新しく立ち上げるプロジェクトに、私も引き続き参加させていただくことになったのである。

そんなわけで、新規プロジェクト立ち上げのお手伝いをするのが目下、私のお仕事だった。
その手伝いも、基本的にはグループのコンセプトに関わるアイデアに意見を出したり、新人のスカウトだのオーディションだのといった人選について相談を受けたりする程度で、正直なところ力になれているとは言い難い。

けれど、以前のようにプロデューサーさんに頼りきって自分から何も動かないよりは、微力でもこうして関わっていた方が、少なくとも今は気が楽だった。

それと、かつて私が例の仕事を断ってしまったことの罪滅ぼしという理由もある。
あるいは、私がこうしてプロジェクトに密接に関わることで、今後もしかしたらあるかもしれない紗枝ちゃんの妨害も未然に防げるはずだという思惑も、ないではなかった……
そんなこと、信じたくはないけれど。



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