143: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 13:57:11.07 ID:iX/HvtXE0
すると突然、私は彼女に伝えるべきことがあるはずだと思い出した。
その閃きは、後に振り返ってみれば、彼女をただ困惑させただけの、私の自己満足に過ぎないものだった。
が、なぜか私はその時、これだけは伝えておかなければならないという奇妙な使命感に突き動かされて、深く考えるよりも先に言葉が口をついて出た。
「……あの、ね」
「…………」
「今度の日曜日、なんだけど……演奏会があって」
「……知っとる」
彼女はぶっきらぼうに答えた。
私は内心、驚きにうろたえた。
と同時に、心のどこかで安堵している自分も発見した。
私は動揺を悟られまいと努めて平静を装って続けた。
「私……頑張ってるから……だから、その……紗枝、の都合が合えば、良ければ見に来て欲しいな、って……」
視界の隅で、彼女がこちらを振り向いたのが分かった。
私は相変わらず正面を向いたまま、湯水に透き通っている自分の足と、その隣に並んで同じように横たえている彼女の足とを、見比べるようにじっと眺めていた。
「本気……?」
私はハッと顔を上げた。
彼女のまっすぐな眼差しが私の視線に重なった。
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