153: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 16:53:00.24 ID:iX/HvtXE0
「……正直なことを言うと、最初は、反対したい気持ちもありました。高校生なんてまだ子供だし、ましてやゆかりみたいなぼんやりした子が東京で一人で暮らしていくなんて、もう心配で心配でとてもじゃないけれど賛成できない、最初はそう思っていましたよ。それに、アイドルにしたってお母さんには何がなにやらさっぱりな世界だし、そんな危険かも分からないようなところへゆかりを送り出すのは親としても非常識なんじゃないかしら、って……」
お母さまは昔を懐かしむようにおっしゃった。
「でもね、ゆかり。その頃お母さんは別のことも心配してたのよ。ほら、ゆかりって昔からわがままとか言わない子だったでしょう? 素直で良い子で、そのうえ嫌なことがあっても我慢してるんだか気にしてないんだか分からないくらい、ぽけっとしてて……それがちょっと心配だったの。真面目なのは良い事だけれど、なんというか、主体性に欠けてるような気がしたのね。それで思ったのよ。実は私たちの方こそ、ゆかりを大事にしすぎて、あの家に閉じ込めて、自由な心を奪ってしまってるんでないかしら、って」
私は黙って耳を傾けていた。
「せっかく広い世界を知ることができるチャンスなのに、ここでゆかりの可能性を私たちが潰していいのかしら……そんな風に思ったの。それにね。もっと言えば、ゆかりにはお母さんみたいな世間知らずな大人にはなってほしくなかったのよ。だから、最終的には、ゆかりを東京に行かせることには反対しませんでした」
「……お母さんは、そうして正解だったと思う?」
お母さまは私の目をじっと探るように覗き込んで、それから、寂しげにおっしゃった。
「そうね。ゆかりはたくましくなったわ」
そして、まるでご自身に言い聞かせるように、
「もう、子供じゃない」
そう呟かれて、嬉しいような、切ないような微笑をふわりと浮かべるのだった。
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