157: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 16:55:56.68 ID:iX/HvtXE0
そうして一度、始まってしまえば、あとはこのゆりかごのような慣性に身を委ねるだけだった。
呼吸するように、私は大きなうねりの中にいた。
もはやフルートだけでなく、音楽自体が私の一部なのだった。
ひとつの秩序、ひとつの世界に組み込まれながら私は無限に拡張され、同時にその全てと混ざり合う。
一〇分に満たない序曲が終わり、拍手が上がった。
私はステージの黄金の輝きの内側から、仄暗い客席へと目を走らせた。
そこで私は見た。
ホールの入口付近に一人、見慣れた背丈の人影が立っている。
黒く目立たないコートを着て、背景に溶け込むようにひっそりと佇んでいる。
けれど私にはすぐ分かった。
以前、私が持ち帰り、そして彼女の部屋のドアノブにそっと掛けておいたあの帽子を深々と被って、こちらをじっと見つめている……。
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