17: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 09:03:51.39 ID:iX/HvtXE0
スタジオに向かう通路で先生と鉢合わせした。
「おはようございます」
と業界お決まりの挨拶をすると、先生はちょっとおかしいような、驚いたような顔をなさって、スタジオに入る前に御手洗いで鏡を御覧なさい、とおっしゃった。
怪訝に思ってトイレに入り、鏡を見ると、白いシャツがたっぷり汗を吸って、濡れた肌が透けて見えてしまっていた。
慌てて周囲を見渡して、個室にも誰もいないことに安堵したけれど、どちらにせよもう遅い。
私はいまさら恥ずかしくなって赤面した。
鏡にはそんな私の赤くなった顔まではっきりと映った。
不意に、そこに立っている破廉恥な姿をした私が、私の知っている私ではなくなっていくような感覚がした。
明るい光を反射している長い髪の毛。
私をまっすぐ見つめる、するどい瞳。
小さな薄い唇、紅潮した頬、汗ばんでいる喉、胸元、肩、腋、それらにぴったり吸い付いているシャツの透明な肌色、そこに透けて見える下着の淡い輪郭……
そんな私の細部それぞれが私自身から取り外され、私とは無関係にそこに集まって、それから次第に私の姿を模した肉体へと再構築されるような……
そんな風に不思議に思って鏡をじっと見つめていると、気付いた次の瞬間にはもう、鏡には私自身の姿が蘇っていた。
試しに手のひらを自分の頬に当ててみると、それは確かに私の体の一部だった。
それからもう一度鏡を見つめてみたけれど、あの不思議な感覚はもう戻ってこなかった。
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