170: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:11:27.92 ID:iX/HvtXE0
十七
夜、九時ごろだった。
ネットで調べものをしていると、突然、インターホンが鳴りだした。
こんな夜中に誰だろう、私は怪訝に思いながら、マンションの自室に備え付けてあるドアホンのテレビカメラを覗いた。
一瞬、誰か分からなかった。
紺のジャンパーを羽織り、ぶかぶかしたフードを被っているその人物は、まるで浮浪者のように全身を雨に濡らして私の部屋の前に立っていた。
それは、確かに怪しい人物には違いなかった。
が、私は警戒するより先に、その見覚えのある姿に奇妙な胸騒ぎを覚えていた。
フードの影に垂れている長い前髪、ほっそりした顎のライン、そしてつぼみのように小さく結ばれた口元……
まさか、という予感が閃光のように走る。
心臓が早鐘を打ち、私は、それでも信じることができずに、
「……どなたですか?」
とドアホン越しに呼びかけた。
すると来訪者はぴくりと怯えたように反応し、震える手でフードを脱いだ。
私は玄関までのほんの僅かな距離を駆け出して行った。
なぜ、どうして……私は心に叫んでいた。
あらゆる疑問、あらゆる感情が胸のうちに押し寄せ、そのまま激突するようにドアノブに手をかける。
「紗枝ちゃん!」
彼女は、私の姿を見るや否や、顔をくしゃくしゃにして、感極まったように泣き出した。
吼えるような慟哭がマンションの通路にこだまする。
けれど私は、それすら気にも留めずに、彼女の取り乱した姿を食い入るように見つめてばかりいた。
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