水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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172: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 17:13:28.34 ID:iX/HvtXE0

彼女はひどく弱っていた。
その長い黒髪は単に雨に濡れただけではない奇妙なべたつきがあった。
落ち窪んだような目元、よく見れば青ざめている唇、そしてこの高熱……羽織っているジャンパーを脱がすと、その下はシャツ一枚という薄着だった。

一体、彼女の身に何が起きたのだろう?
私はよっぽど事情を問いただしたかった。
が、今はそれよりも彼女の身体が心配だった。

私は、力の抜けた彼女の重たい身体を支え、ベッドの上に座らせた。
するとふいに酸っぱい匂いが鼻をついて、それは薄汚れたシャツから臭ってきていた。

私はためらいながら彼女のシャツも脱がした。
明るい部屋の中に見る紗枝ちゃんの下着姿は一層哀れだった。
以前よりさらに痩せこけ、あばら骨が浮き出ている。
私は思わず目を背け、そしてそれを誤魔化すように替えの服を探しに行った。


その後、私は彼女を着替えさせると毛布に包んでベッドに寝かしつけた。
あの様子だともしかしたら食事もろくに取っていないかもしれない、そんな予感がして、私は、バスタブにお湯を溜めている間、台所で軽くご飯の支度をした。
簡単な雑炊とりんごを三切れ、用意してベッドまで運んだ。

彼女は相変わらず辛そうに息をしていた。
が、先ほどよりはずっと意識もはっきりしてきたようだった。
私はトレーを机に置いてベッドの脇にかがみ、そののぼせたような赤い顔にそっと手を伸ばした。

彼女の頬はしっとりと汗ばんで熱かった。

そうして肌に触れながらまじまじと見つめているうちに、気付けば私は、もうこれ以上自分の心を欺き続けるのは不可能だと悟った。


私はどうしようもなく紗枝ちゃんのことが好きだった。

彼女への憧れ、彼女への愛慕は、この空白の一年間、少しも変わっていなかったのだ。

彼女の苦しみに歪んだ表情を、私は胸が張り裂けるような思いで見つめていた。……



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