21: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 09:07:54.77 ID:iX/HvtXE0
スタジオを出て先生と別れたあと、早めにお昼を食べようと思い、一階のロビー近くにある売店へ向かった。
そこへ行くためには、エレベーターを降りたあと、広大なエントランスを横切り、向かい側の棟のエスカレーターを回りこんで、その奥にある待ち合いスペースまで歩かなければならない。
つまり、途中で社員や来客の方々と頻繁にすれ違うことになるわけで、そうなると当然、顔見知りの方と挨拶する機会も少なくない。
でも、この時の私は、その出会いの偶然に自分でも思いがけないくらいびっくりしたから、彼女が何か険しい様子で口論しているのを目撃した気まずさもあって、咄嗟に物陰に隠れてしまったのだった。
相手は紗枝ちゃんのプロデューサーさんだった。
「……こないな場所でそんな話、よしておくれやす……約束なんてした覚えありまへん……うちはただ、ゆかりはんと……」
自分の名前が聞こえて、はっと身体がこわばった。
途端に、聞き耳を立てているのがひどく悪いように思われて、立ち去ろうか、とどまろうかオロオロしているうちに、二人の会話は打ち切られた。
やがて足音が私の隠れている方へ近づいて来、そのまま私はどうすることもできずに紗枝ちゃんと鉢合わせした。
通路の曲がり角で、うつむきがちに早足に歩いて来た紗枝ちゃんは私の姿を見止めると「あっ」と小さく声を上げて驚きに目を見張った。
「すみません、あの、お昼ごはんを買おうと思って……」
「聞いてはったんどすか?」
私が慌てて取り繕うのを見透かして彼女は言った。
観念して素直に謝ると、
「そんな切なそうな顔して謝られたら、かえってうちが悪いことしたみたいやわぁ」
そう言って愉快そうに笑うのだった。
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