20: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 09:06:39.59 ID:iX/HvtXE0
「何か、お聞き苦しい所があったのでしょうか?」
「そういうわけじゃないのよ。むしろ今日の水本さんはいつも以上にブレスが安定していたし、言われた事もちゃんと覚えていて、レッスンの内容としては十分合格ラインです」
急に褒められたので、私はどう答えたらよいか分からず、つい「はあ」などと間抜けな声を出してしまった。
先生はそれから意外なことをおっしゃった。
「あまり変な風に受け取らないでほしいのだけど、今日の演奏はなんだか水本さんらしくないような気がしたのよ。つまり、そうね……張り詰めた雰囲気、とでも言うのかしら」
「張り詰めた……」
「ああ、勘違いしないでね? べつにそれが悪いっていうわけじゃないんだから。ただ……いえ、なんでもないわ。水本さんにも心当たりがないというなら、私の気のせいね、きっと」
先生は納得されたように話を打ち切り、それから帰り支度のために御自分の荷物のところへ行かれてしまった。
私もまた荷物を片付けて帰る支度をした。
その間、先ほど先生がおっしゃったことの内容が、私がその理解を曖昧なままにしていたせいでしばらく頭にこびりついて離れなかった。
私の知らない所で、私の身になにか変化が起こったのだろうか。少なくとも今日のレッスン中、調子が乱れたり、思うようにいかないという感覚はなかった。やはり、先生の思い違いか、そうでなくとも私が真剣に考えるほどの問題ではないのかもしれない、先生のあの口ぶりからしても……けれど、それでもわざわざ言及なさったくらいなのだから、どこか私の演奏にひっかかるものがあったに違いない。……これも私の考えすぎだろうか?
そんな風に悶々としていたら、ふと、あの時の、鏡に映った私そっくりの私の姿を思い出して、寒気がした。
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