24: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 09:11:38.63 ID:iX/HvtXE0
「その件に関してはプロデューサーさんに厳しく注意されちゃいましたけど」
そんな風に私が懐かしがって話すのを紗枝ちゃんはじっと押し黙って聞いていた。
私は目的も忘れてぼんやりと歩いていた。
陽のひかりがあちこちに真夏の結晶をきらめかせ、景色はゆるやかに行き過ぎながらなお私たちの行く手にどこまでも横たわっている。
立ち並ぶビルの向こう側から、湿った、唸るような喧騒が聞こえてくる。
そんな昼下がりの街の声に、私たちの気まぐれな沈黙が曖昧に溶け込んでいく。
時折すれ違う人々のせわしない足どり、アスファルトから立ち上る陽炎、そして蜃気楼……
「ゆかりはん」
呼ばれて我に返ると、地下鉄に降りる入口を通り過ぎてしまっていた。
慌てて紗枝ちゃんの元へ戻る私を、彼女は特にじれったいような素振りも見せず、のんびり待ってくれていた。
しかしその時の、私を呼び止めた紗枝ちゃんの表情が一瞬ひどく悲しげに……何か痛々しい感情を堪えているように見えたので、私は妙な興奮と罪悪感とから反射的に顔を背けてしまった。
そうして地下鉄の薄暗い階段の奥に目を凝らしながら、この何とも言えない不安の正体をその嫌な匂いのする風のなかに見出そうとした。
が、すぐに思い直して再び紗枝ちゃんの方を振り返った。
彼女はそんな私の不可解な仕草などにはまるで気付いてない様子で階段の先へ降りて行こうとしていた。
私は、今しがた見た彼女の悲しげな表情はすべて幻だったこと、単にこの夏のおびただしい日照りが彼女の顔に投げかけた偶然の影にすぎなかったことを、半ばそうであってほしいと願うような思いで自分に言い聞かせ、彼女の後に付いて行くのだった。……
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