27: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 09:14:38.18 ID:iX/HvtXE0
が、それは私の思い違いだった。
紗枝ちゃんは何やらずっと私に向かって話しかけ、私は無意識に相槌を打っていたらしかった。
そのことに気付いた時にはもう、紗枝ちゃんは話したい事をほとんど話し終えてしまっていた。
私は奇妙な喉の渇きを覚えてコップを手にした。
が、中身はすでに飲み干していて、さきほどまで食べていたはずのクレープも気が付けば全て平らげてしまっていたのだった。
そしてそれは紗枝ちゃんも同じだった。
「あら、もうこない時間に……ほな、そろそろ行きまひょか」
満足げに席を立つ紗枝ちゃんの後に付いて行きながら、私は今しがた見舞われた奇妙な幻想について考えを巡らせていた。
私がぼんやり彼女の瞳を見つめ続けていた間、そこに一体どんな会話が交わされていたか、はっきりとは覚えていない。
しかし同時に、あの瞬間、私は彼女の言いたいことの全てを理解していたのだ。
あの憂いを帯びた眼差し、表情、指先のわずかな振動、そうした彼女を形作るすべてのものから……
そのようにして私は自分のこの不思議な考えに夢中になった。
どうかして彼女にも私のこの理解が伝わっていないものかなあと願いながら……。
寮に着く頃にはもう日が暮れかけていた。
私たちは両手にたくさんの買物袋をぶら下げ、汗を滲ませながら寮の階段を上っていった。
そして前と同じように二人で一緒に夕飯を食べ、お風呂に入り、私の部屋でテレビを見た。
夏休みの、なんということもない一日だった。
次の日もきっと同じように過ぎていくだろうと信じられるような一日だった。
私たちは自由で、けれどそれは明日また二人で遊びに出かけようと約束することによってのみ果たされる自由だった。
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