26: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 09:13:39.00 ID:iX/HvtXE0
お昼を過ぎてもう時間も経つのに、フードコートは人でいっぱいだった。
クレープ屋さんの列に数分並んで、私はメイプルバターと紅茶のシンプルなセットを、紗枝ちゃんはバニラアイスと黒蜜に生クリームまで乗った豪華なクレープとタピオカの抹茶ミルクを注文した。
私たちは隅っこの方のテーブル席に座り、出来立てのクレープをほおばりながら味について感想を言い合ったり、お互いに食べ合いっこしたりした。
「物足りひんのかなぁ」
唐突に彼女が切り出したので、私はびっくりしてしまった。
こんなに胃に重たそうなクレープを食べてまだ足りないなんて、人は見かけによらないものだなあ、なんて感心しかけたところで、すぐにそれが先ほどの話題の続きだと気付き、改まって椅子に座りなおした。
「確かにうちは元の性格がのんびりしてるさかい落ち着いた風に見えるんはきっと間違ってへんし、下品な娘や思われるよりよっぽどええんやけど……でも、うちがただ大人しいだけの面白みのない人間や思われるんも、なんやつまらんなぁ思て……」
彼女は独り言のようにつぶやいて、それから抹茶ミルクを一口飲んだ。
「私は、紗枝ちゃんはとても個性的で面白い人だと思っていますよ」
「せやろか?」
「はい」
私はやや力を込めて返事をした。
彼女はテーブルに片肘をつき、手に頬をのせ、何か物思いにふけるような遠い眼差しで私の胸のあたりを見つめていた。
私は食べかけだったクレープに口をつけ、目の前にいる紗枝ちゃんの可愛らしい顔立ちをなんとはなしに観察しながら、彼女のその悩ましげな瞳に思いがけないほどな美しさを発見したりした。
ふいに彼女は溜め息まじりの微笑を私の方に向けた。
潤んだ大きな眼が私を見つめ返す。
その瞬間、私たちの周りから音がさあっと引いていく。
彼女の口が艶かしく動き、薄紅色のくちびるを震わす。
すると私の意識にはもう彼女のはっきりした輪郭だけが焼きついて、他は何も残らなかった。
私たちはお互いに何の言葉も交わさないまま、ただそうやってお互いの瞳の中を見つめてばかりいた。……
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