水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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29: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 09:19:21.40 ID:iX/HvtXE0


   四

紗枝ちゃんとはそれからも頻繁に遊びに行くようになった。
あるいは寮のどちらかの部屋で一緒に過ごす日が多くなった。

私の部屋のクローゼットには彼女が選んでくれた可愛らしい洋服が日に日に増えてゆき、また彼女が好きなアーティストのCDや漫画雑誌、二人で買い揃えたアクセサリーや小物などが部屋のあちこちに置かれるようになった。

日中、外へ遊びに出かける時は二人でそれとなく変装するようにした。

遊びに誘うのはいつも紗枝ちゃんの方からで、私から誘うのは十回に一度くらいのものだった。
最初、私はそのことに引け目を感じていて、たとえば買い物の途中、不意に携帯が鳴り、それが紗枝ちゃんからの電話だと分かった瞬間、ああ、また先を越されてしまった、次こそ私から連絡しよう、などと一人後悔しては反省し、そうして次の機会をうかがっているうちにまた彼女から、今日はおやつ買ってきたから一緒に食べようとか、勉強で分からないところがあるから教えてほしいとか、他愛ないきっかけで誘われたりする、そんなことを繰り返していた。

ある日、そうやって私ばかり受身でいて申し訳ないというようなことを彼女に打ち明けたことがある。
すると彼女はまるで私の考えなんてお見通しと言わんばかりに――せやなあ、うちもいつ御馳走に誘ってくれるんやろかって、今か今かと待っとるんやけど――などと得意気に皮肉るのだった。
また私がその言葉を真に受けると彼女はからから笑って、冗談どすえ、と言った。

そして実のところ紗枝ちゃんも似たような悩みを抱えていたのだという。
――うちばかり一方的にちょっかいかけて、もしかしたらゆかりはん迷惑なんちゃうやろか――
結局のところそれらは単なるすれ違いにすぎなかったのだ。


私たちはそのようにして、二人の間に見つけた落とし穴を小さな驚きとはにかみと共に埋めていった。

そして関係とはいつもその共同作業の上に築かれていくものだった。
多くの場合、穴は二人だけのルールや約束事や暗黙の了解によって埋め立てられた。
時にはそれが私たちの信頼の旗印にもなったりした。
のちに私の方から紗枝ちゃんを遊びに誘うとき、そこに何か特別な意味が込められるといった認識が生まれたのも、そうした共同作業のひとつの結果だった。



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