31: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 09:20:34.47 ID:iX/HvtXE0
「ゆかりはんの演技、堂々としてて雰囲気出てはるもんなぁ」
リハを終えて二人で帰る道すがら、紗枝ちゃんが言った。
私はそれとなく満足げに答えた。
「お芝居って、けっこう面白いものですね」
「あら、余裕しゃくしゃくかいな〜?」
「うふふ」
「んもう、得意そうにしはって……うちなんか台詞追うのに精一杯でお芝居まで気ぃ回らんわ」
「そんな風には見えませんでしたけど……」
「まあ、形だけこなすっちゅうんは慣れとるさかい、ごまかしはきくんやけどな」
紗枝ちゃんが言っているのはおそらく、彼女が幼少期から続けているというお稽古事の話だろう。
日本舞踊や茶道、華道など、歴史ある芸事というのは何かと作法を重んじるものである。
彼女はそれこそ「叩き込まれた」とまで言っていたくらいだから、型を身につけることの重要性も、そのコツのようなものも熟知しているのだと思う。
だからだろうか。
紗枝ちゃんを見ていると、振る舞いにしろ人付き合いにしろ器用だなあと感心することが少なくない。
時には羨ましいとさえ思ったりする。
彼女の、そうやって何でもそつなくこなす姿に私は憧れていたし、同時に尊敬してもいた。
本人の前でそれを口にしたことは一度もないけれど。
「たぶん、自然な演技、ちゅうのが苦手なんやろなぁ」
「うーん……紗枝ちゃんの演じる役自体、難しいんじゃないでしょうか」
「それもあるやろなぁ。『愛を伝える少女』なんて……意味分からんもん」
紗枝ちゃんが拗ねたように言うので私は思わず「ふふ」と笑ってしまった。
「まだ『愛を知らない少女』の方が簡単かもしれませんね」
「なぁなぁ、今のうちに役、交代せえへん? うちもそっちやりたかったわ」
「いくら紗枝ちゃんの頼みでも、主役は譲れませんよ」
「いけずぅ」
言いながら楽しそうに小突くのだった。
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