水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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32: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 09:21:19.28 ID:iX/HvtXE0

それにしても、愛、だなんて、私たち高校生には難しすぎるテーマではないだろうか。
台本には『愛』という言葉はたくさん出てくるけれど、それが主人公である私の役にとってどんな意味を持つ言葉なのか、いまいち理解していないのが正直なところだった。
私もまだまだ勉強不足なのだろう。

「ゆかりはんは真面目に考えすぎどすえ。そんなん普通、大人にだって分かってへんのやし」

「でも、興味深いです。紗枝ちゃんは愛について考えてみたことは?」

すると彼女は一瞬口をつぐみ、やがて溜め息混じりに呟いた。

「……ゆかりはんのそーゆーとこ、ほんま羨ましいゆうか……敵わんなぁ思いますわ」

「?」

「素面でそないな台詞吐ける人、ようおらん思うで? うちかてお芝居やなかったら愛なんて言葉、小ッ恥ずかしくて言えへんわ」

「こっぱずかしい、ですか?」

「もう、ほんまにいけずなんやから……」

紗枝ちゃんは呆れたようにそっぽを向いて、そのまま黙ってしまった。

怒らせてしまっただろうか?
そんな風に不安に思っていると、再び彼女が口を開いた。

「愛って、うちが語れるほど単純なもんなんやろか。そら、確かに恋愛のお歌はたくさん歌ってきたけど……それやってただ言われたとおりに歌ってただけやし、なんぼ表面ばかり取り繕っても根っこでは全然、真剣やない、お仕事やから、言われたから従ってただけ……そないな人間に、愛について語る資格がありますやろか?」

「私は、紗枝ちゃんにも愛を語る資格はあると思います」

即答したので、紗枝ちゃんは面食らったように私の方を振り向いた。
しかし私もそこから二の句が継げず、まごついてしまった。

「……ふふっ、よっぽどゆかりはんの方が愛を心得てるみたいやなぁ。ほんまに」

「ごめんなさい。なんだか、生意気でしたね、私……」

「そないなことあらしまへんえ。むしろゆかりはんがそうやって断言してくれはると、なんや心強いわぁ」



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