45: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 09:34:32.70 ID:iX/HvtXE0
全身は極度に疲弊し、額に脂汗が滲んでいるのが分かる。
私はいまだ混乱から立ち直れず、また紗枝ちゃんの顔を見るのも恐ろしかったので、そのままぐったりと床を見つめながら気持ちが落ち着くのを待った。
「あら、汗びっしょり……やっぱり冷房は上げない方がよかった?」
紗枝ちゃんがポケットからハンカチを取り出して私の額の汗を拭った。
そして……そしてなぜだろう、私はにわかに安心を取り戻した。
彼女の仕草には偽りのない献身があった。
彼女の優しい気遣いを嬉しいと思った。
その親しみと思いやりのこもった手に跪き、すがり、感謝の言葉を尽くしたいとすら思った。
まるで悪夢から覚めた子供が泣きながら母の抱擁を求めるように、私は彼女に救いと癒しを求めた。
だから、彼女がハンカチを引っ込めてついと顔を逸らした時、私の手は反射的に彼女の服の裾を掴んでいた。
それこそ駄々をこねる子供のように、あるいは彼女に見捨てられはしないかという恐怖のために……
すると彼女は少し驚いたように私の方を振り向き、助けを乞うように引き止めている私の手をそっと剥がした。
そして、まるで自分の子が人混みにはぐれてしまわないか心配する母のように、私の手を固く握り返すのだった。
そうしているうちに彼女が突然その場にしゃがみこんだ。
しかしそれはよく見れば単に床に落ちた紙コップを拾おうとしていたにすぎなかった。
彼女はこぼれた水もハンカチで拭いたあと、一言「戻りましょう」とだけ言って私の頼りない手を引いて歩きだした。
私はそこで初めて、私たちがいつの間にか建物の奥の人気のない場所へ来ていたらしいことに気が付いたのだった。
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