61: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:15:42.96 ID:iX/HvtXE0
――その日、私は午前中にフルートのレッスンの予定が入っていた。
しかし結局、あのあと紗枝ちゃんと二人で寮のお風呂に入って、それがまた思いがけず長引いたので、寮を出発したのは予定より三〇分以上も遅れてからだった。
もちろん、レッスンには遅刻してしまった。
事前に遅れる旨を連絡してはいたものの、先生には手厳しく注意された。
というのも、私ときたら、お叱りを受けている最中すら上の空で、ぼんやりしているような有様だったので、余計に叱咤されたのである。
確かに、この日、私はスタジオまでどうやって来たのかうまく思い出せないほど、ぼんやりしていたらしかった。
ただ、レッスンの最中、ずっと呆けていたかというと、それは違う。
むしろ、フルートの演奏に関して言えば、私はいつにないほど伸びやかに、繊細に、豊かに音を鳴らした。
特別なことは何も意識していなかった。
ただ自然に、音の流れに身を任せるように、フルートと向き合っていた。
にも関わらず、私は自分がこれほど思い通りの音色を奏でられることに内心驚いていた。
これについては先生も非常に困惑なさったようで、私がひととおり課題のフレーズを吹き終えたあと、水本さん、今日は一体どうしちゃったのかしら、などと驚きながら仰ったほどだった。
「なにか、おかしかったでしょうか……?」
不安に思い、尋ねると、先生は少し興奮気味に私の調子の優れているらしいことを褒めてくださった。
そうしてこの日のレッスンは、私が遅刻した分を埋め合わせる以上に、大幅に練習プランを進めることになった。
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